0.9999...は1なのか問題に決着をつけたい話
こんにちは。0.9999...が1と等しくなる証明って色んな人がやってて、YouTubeにも関連動画がたくさん上がってて、でもどの動画を見ても結局0.9999...と1って厳密には違うものなんじゃないの?って思ったり思わなかったりしますよね。今回はそのもやもやを少しでも解消できたらいいなと思って私なりの考えをまとめてみました。
※この記事はわかりやすさ重視のため部分的に厳密な表記とは異なった表現をしている箇所があります
「同じ」とは何か?
本題に入る前に2つのものが「同じ」であるということはどういうことなのか考えます。机にふたつのみかんが置いてあるとしましょう。この2つのみかんは同じものでしょうか?みかんを「くだものの種類」と考えれば2つは同じものです。りんごとみかんは別物でも、みかんとみかんは同じものであると言えます。でも2つのみかんにはそれぞれ色や形、産地や成分などの特徴があり、それらの特徴が「全く同じ」であるということはないでしょう。何が言いたいかというと、「2つのものが同じである」と主張するときには必ず「何をもって同じとするか」という基準が伴っている、ということです。りんごとみかんとトマトがあるとき、色を基準にすればりんごとトマトは同じものですし、果物か野菜かを基準にすればりんごとみかんは同じものです。
この「同じ」という概念を数に適応することを考えます。数学の世界では基本的に、1つの点を中心として半径が正の実数となる円を描くときに、どんな円を描いてももう一方の点もその円の中に入ってきてしまうなら、2点は同じであると定義します。「どんな円を描いても」というところがポイントです。
定義1:一方の点を中心とする任意の円(半径は正の実数)を描いたときにもう一方の点もその円の中に入ってきてしまうなら、2点は同じ
どうしてこう定義するかというと、次の公理から自然に従うためです。
ハウスドルフの分離公理:異なる2点はそれぞれ交わらない円の内部の点として分離できる。
つまり、異なる2点が与えられたとき、一方を中に入れて、一方を外に出すような円が描けるということです。当たり前のことですよね。これは認めてください。この公理、逆に言えば、一方を中に入れて一方を外に出すような円が描けないとき、2点は同じであるということになります。これが先ほどの定義1になるわけです。
0.9999...と1が円で分離できないことを証明すればいい
数直線上で1に対応する点を中心とする半径εの円を考えます(εは正の実数)。この円の内部に含まれるのは1-εより大きく、1+εより小さい数です。εがどんなに小さい数でもこの中に0.9999...が入っていることを証明すれば、定義1から0.9999...=1と言うことができます。εは正の実数なので小数表示したときに必ず0以外の数字がどこかに表れます。それを小数第n桁とすると、少数第n+1桁まで9で埋めた0.999...9は円の中に入ります。さらに小数第n+2桁目まで9で埋めた小数、小数第n+3桁目まで9で埋めた小数…というふうに数を考えると、それらはすべて半径εの円の中に含まれます。だから当然無限小数0.9999...も半径εの円の中に入ります。いま、εは正の実数という条件しか課していないので、これで0.9999...=1が証明されたことになります。
ここまでの議論をまとめると「異なる2点は円で分離できる」→「同じ点は円で分離できない」→「0.9999...と1は円で分離できない(0.9999...が1を中心とする円に入ってきてしまう)」→「よって0.9999...=1」。
違和感の正体
おそらくここまでの説明を聞いて「なるほど!だから0.9999...=1なのか!」と納得した人は少ないと思います。同じ円で囲まれているからといってイコールで結べるのか?と疑問を持ったことでしょう。数直線を円で囲むとその円の中には無限個の点が入ります。先ほどの定義だと、この円の中に入っている数はすべて同じだということになってしまいます。ここで最初にした「同じ」とは何か?を思い出してください。りんごとみかんは別の果物ですが、「果物である」という点は同じだという話をしました。数学の世界もこれと一緒で、ある程度まとまっている点は同じとみなしてしまおうという考えなのです。この「同じとみなす」基準のことを「位相」と呼びます。先ほどの、半径εの円の中に入っている点を同じとみなすという基準は「ユークリッド位相」または「通常の位相」といいます。ユークリッド位相のほかに「離散位相」というものがありますが、これはめちゃくちゃ簡単に言えばありとあらゆるすべてが一致していないと同じと認めない、という位相です。離散位相を数直線に定めると、0.9999...は1とは絶対に重ならないので、0.9999...≠1になります。1/3≠0.3333...ですし、π≠3.1415...です。ユークリッド位相でいうところの半径εの円は離散位相でいうと「1」のみが入った集合{1}に当たります。
結局0.9999...=1なのか?
結論を言えば、実数集合にユークリッド位相が入っている場合、0.9999...は1のε-近傍(中心1半径εの円の内部)に入るので0.9999...=1、離散位相を入れた場合、0.9999...はどう頑張っても集合{1}の内部に属することができない(集合には1しか入っていないため)ので0.9999...≠1です。ただ、普通に数学を考えるときは実数の集合には通常のユークリッド位相を定めるという不文律があるので0.9999...=1と考えてokです。
どうしてユークリッド位相を定めるのかと言えば、それ相応のメリットがあるからなのですが、それは時間があるときにまたトピにしようと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました。質問等あればコメント欄にお願いします。
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