冷笑中毒ジャエロ・マジカヨ
俺の名前はジャエロ・マジカヨ、町中を探せば居る高校生だ。
最近の地球温暖化による異常な暑さで俺は以前より多くの「冷」を求めるようになった。
その悩みを親友のゼンギ・リノシーに相談した所、彼の回答は「冷笑」だった。
別にこれで身体が冷めるわけではないが、俺は何かを冷笑する時のなんとも言えない満足感に麻薬の如く脳を焼かれてしまった。
結果、俺は冷笑中毒になってしまった。
そして俺は今、盆踊りの会場に向かっている。
ブサイクなおばさんやハゲた爺さんが夏のこの時期だけ本気で踊っていることは俺にとっては凄まじい冷笑の糧になるのだ。
特にこの盆踊りを”本気”で踊っているというのが冷笑心を刺激する。
盆踊りが始まった。
俺の眼は、すぐさま脳にその風景を伝達した。1秒もしないうちに俺の脳内は冷笑とそれにより生じたドーパミンが支配した。
そしてそれからしばらく、俺は時を忘れて冷笑をしていた。
我に返ったのは1時間後に従兄弟に声をかけられたときだ
「あー!おにーちゃん!」
まだ小学生にもなってないこいつは俺と違って善良な心を持っている。
恐らく冷笑の存在すら気づいていない。今度俺がこの快感を教えてやってもいいのだが…
話を聞くと従兄弟も盆踊りを踊っていたらしい。俺の眼にはジジババしか写ってなかったので気が付かなかった。
可愛い女の子(6〜25)とまだ小学生にもなっていない子どもは冷笑しないと俺は心に誓っているので流石にそれに冷笑はできなかった。
そんな感じで話を続けていると、従兄弟がとんでもないことを言い出した
「ねーねー一緒に踊ろうよー」
その言葉に、俺は脳を介さず脊髄のみで判断して首を振った。盆踊りを冷笑しに来たのに自分が踊ってしまっては来た意味がないからだ
「いやー…俺今まで一回も踊ったことないからさー…」
俺は適当な言い訳をしてその場を立ち去ろうとした。ちなみに踊ったことがないのは事実だ。
「…」
だが俺は途中でなぜか足を止めてしまった。そして次の言葉に俺の脳は揺さぶられる。
「僕も今日初めて踊ったし大丈夫だよ!真ん中のおじいちゃんとかおばあちゃん見てたらだいたい分かるし!」
あんなジジババを見ながら踊るなどそんなこと俺にはできない。だがその事実をこの子には伝えたくなかった。
足を止めてとどまっている俺に従兄弟はさらに追い打ちをかける
「一緒に踊りたいなぁ…ねぇいいでしょ」
「……」
俺にはこれを断ることはできなかった
…盆踊りというのは俺の想像よりも難しいものだった。
思っていたよりも身体の動かし方がわからず、俺はタコのようになってしまっていた。
俺はふと、中央付近で踊っている見本のジジババに目を向けた。
冷笑しているときは気が付かなかったが、それは実に上手な踊りだった。
その瞬間、俺は今までありとあらゆるものを片っ端から冷笑していた自分が情けなく感じた。
気がつけば踊り始めてから10分以上が経過していた。途中、親戚に声をかけられるまで俺はただ無気力に踊っていた。
どうやら親戚は従兄弟を連れて帰るために此処へ来たらしく、俺も近くにいたのでもしかすると一緒に踊ってくれていたのでは…とのことで俺に声をかけたらしい。
親戚と少し会話を交えた後、俺も家に帰ることにした。
家に帰った後、俺はいつものように投票トークを開いて好感度タグや大喜利タグを冷笑しようとした。
しかし、さっきの出来事があったからか俺は冷笑する気が失せていた。
”コイツラも此処を盛り上げるためにやってくれているのではないか”…と、俺は盆踊りのジジババとタグを作っている人間を重ねてしまっていた。
そして俺は一人、深夜の投票トークに好感度タグを立てていた。それと同時に俺はこれからの人生、冷笑をせずに生きていこうと心に誓った。
…翌日。
いつもならば朝は起床と同時に投票トークでいろんなタグを冷笑しているのだが、冷笑を生涯しないと誓った俺はそれの代わりに近所の公園をウォーキングをしてみることにした。ウォーキングというのは俺の想像よりも清々しいものだった。特段気温が低い訳では無いが、俺の身体はそこまで熱さを感じなかった。
30分ほどウォーキングした後、俺は近所のコンビニで朝ごはんを買うことにした。
そしてレジに並び会計を済ませようとした。
レジの担当者は黒人のマイケルさんだ。
いつもなら”黒人うおw”と冷笑している俺だが、今日はそんな気持ちなど微塵もわかなかった。
今になって思えば人種差別などこんなにもつまらなく非人道的なことをよくやれたな、と思う。
マイケルさんの日本語は決して上手いものではない。しかし、それは俺も同じだ。
俺も英語や他の言語が上手いわけではない。それどころか日本語すらまだまだ未熟だと感じている。
結局のところどんな人間も似た者同士なのだ。
そんな事を考えていると、後ろの方から声が聞こえた。
「ねぇねぇあの人昨日の盆踊りで下手くそな踊りしてた人じゃない?」
声から察するに恐らく俺と同い年くらいの女性だろう。どこかクラスのKさんと同じ声の雰囲気を感じる。
一瞬俺はKさんかと思ったが、内容から考えるにKさんではない…と信じたい。
Kさんはこんな俺にも優しくしてくれるいい人だ。
この前だって俺が理科の実験の記録を押し付けられそうになったときに、”私がやるから大丈夫だよ”と肩代わりしてくれた。
そんなKさんがこんな事を言うはずがない…そう信じて俺は耳の意識を全力でマイケルさんに向けようとした。
しかし、マイケルさんに意識を向ける直前に話の続きが聞こえてしまった。
この声は恐らくさっきの女性の母親と思われる。
「あー本当だー。滅茶苦茶下手くそだったよねー。」
俺はその言葉に凍りついてしまった。
普通母親というのは子どもがそういう事を言ったら引き止めたり別の話題を出すものではないのか、と。
”下手くそ”、この言葉が俺の脳内に反響する。
気がつけば俺の顔はタコのように真っ赤になっていた。俺の顔を見たマイケルさんは驚愕して眼を丸くしていた。
幸いにも俺は髪を限界まで伸ばしているので、このタコ頭が後ろの家族に見えることはなかった。
会計を終わらせ、俺は逃げるようにレジを去ろうとした。
だが、不運にも後ろの家族に俺の顔を見られたのか、後ろからまたもや声が聞こえてきた。
「あーやっぱりあの人だー。何回見てもブサイクな顔だねー。」
「そうだねー。」
俺の頭の中で何かがぷつんと切れた音がした。
そして畳み掛けるようにLINEの通知がなったので見てみると、なんと家族と親戚のグループラインに昨日の俺の盆踊りの様子が晒し上げられていたのだ。
俺の手は何も考えずに動いていた。
気がつけば俺はその動画に対して、”盗撮うおw人が踊ってるとこ勝手に晒し上げんのキチーw”と返信してしまっていた。
どうやら俺はまだ冷笑をやめられないようだ。
─この物語は一部ノンフィクションです。
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