#意味怖
「Aちゃんには、お兄ちゃんがいたんだよ。お風呂に入るのを嫌がったからキノコになっちゃったんだ」
そう言って父はよく、幼かった私にアルバムを見せていた。アルバムのあるページからはキノコの写真が何枚か入っていた。
今思えば、お風呂に入る事を嫌がっていた私を入れさせるためについていた嘘だったのだけれど、幼い頃の私はその事を本気にしていた。
「ねぇ、おにいちゃんは今どこにいるの?」あるとき父にそう聞くと、父は、「お庭だよ」と答えていた。
当時の私はその事が怖くて怖くてたまらなかった。何故あんなにも信じていたのか、今となってはよく思い出せない。
私は久しぶりにアルバムを開いて、その訳を知った。
ジェットコースターやお化け屋敷などで絶叫しまくり。最後に乗ったのは、定番の観覧車。
どんどん高くなる中で、彼氏の視線が固まった。
「前の人たち、なんで外を見ていないんだ?」
「高所恐怖症じゃない?」
「なんで片方のシートに集まってるんだよ」
「高いところが怖いんでしょ」
せっかく二人っきりなのに、一つ前のゴンドラに乗る家族ばかり気にする彼氏に、溜息が漏れる。
「じゃあさ。一切、ゴンドラが傾いていないのはなんでだ?」
その一言で、観覧車も絶叫マシーンの仲間入りを果たした。