#11 デド
その日の夜
「もしもし…」
夜な夜な隣の部屋かどこかから聞こえるコソコソ声で目が覚めた。
コソコソ声というものは大変迷惑だ。普通に話しているよりもうるさいし、何より耳障りだ。
「うん、そうしてくれるといいんだけど。うん、うん。」
隣の部屋は確かバーゼルとルシフェルというカイと同期の女の子たちの部屋だ。
初めは二人で真夜中の密話を楽しんでいるのかと思ったが聞こえてくる声はなんとも一人だけのようでしかも電話で話しているようだった。
こんな真夜中に電話をするなんて危険気まわりない。デドの生態がよくわかっていないからだ。もしかしたら夜行性で夜中に歩き回っているかもしれない。そうしたら電波を感知されて施設は木っ端微塵だ。
私はすぐ隣の部屋に向かって注意しに行こうかと思ったが一人で行くのも嫌なのでカイを起こすことにした。
「カイ?起きて、?」
すぐに返事をしないので不審に思い顔を覗くとカイはぐっすり熟睡しているフリをしていた。いわゆる狸寝入りをしていた。
「カイ、?」
それでも諦めずに声をかけ続けるとカイは“迷惑そうに起きる”演技を意外と上手にやってのけた。
「せんぱぁい、、なんですかぁ?」
「演技上手いじゃない。ずっと起きてたんでしょ、」
私は隣に負けないぐらいコソコソ声でカイに答えた。蚊が鳴くような声で。
カイも静かにしないといけないことを察したらしくこれまたコソコソ声で答えた。
「まぁ、はい。で、なんです?」
カイは起きていたのに何故か眠そうな顔を私に向けた。
「隣からずっと電話で話す声聞こえてるの気づいてた?」
「はい」
意外にもあっさりとした答えが返ってきて私はビックリした。
「もしかして、起きてたのって…」
「えー!!ホントですか?!」
急に隣から真夜中にしては大きい声で喜びに満ちた黄色い声が聞こえてきた。
電話相手が何かいいことでも言ってくれたみたいだ。
そしてその電話相手は男だ。女に女が黄色い声を出すことはほとんどない。
カイは隣への壁をじっと見つめている。
先程の声で何人かが起きたらしく起きた気配が空気を伝って伝わってきた。
隣のコソコソ声も危険を感じたらしくコソコソ声はほとんど聞き取れなくなってしまった。