SNSの脅威
高校生にとってSNSは生命線だ。
「昨日あげた写真手応えあったのに全然伸びてない!」
友達に勧められて始めたSNSに完全に私はハマってしまっている。
「あれで伸びるわけないじゃ〜ん笑笑」
その友達とは目の前に座って野菜ジュースを飲んで偉そうにしているこの人、彩だ。
「なんでぇ?!この前バズってたやつに似た感じでやったのに!」
「そんな模倣なんてバズらないよ〜笑笑もっと新鮮なやつじゃないとさぁ」
高校生になってスマホを持たせてもらった私に彩は真っ先にSNSを勧めた。
色々な人と繋がれるから自分と趣味の合う人を見つけることもできるし、もしかしたら自分の発言やあげた写真に有名人とかがいいねしてくれるかもしれないからと。
事実、彩は有名人に自分の発言をいいねされたり、フォローされたりしている。
初めは私も有名人に評価されるなんて凄いと思って始めたのだけど今は多くの人にいいねされることを目指して日々投稿を続けている。多くの人からいいねがくると自己肯定感が高まってなんだか嬉しい気持ちになれるのだ。
「どんなのがいいんですかね、先生!」
「んー、バズってるものの傾向って大きくてカラフルでなおかつ見た事のないもの?だと思うんだよね。」
彩はスマホを取り出していいねやシェアが多い写真を見せた。
「スマホ、ちょっ!」
うちの学校は校内でスマホの使用が禁止されているので私は堂々とスマホを取り出した彩に驚いたが有益な情報だ。外からスマホが隠れるようにして私は彩のスマホを覗き込んだ。
確かに、カラフルで大きくてなおかつ見た事がないものばかりだ。
彩は「教えてあげた代わりにオレンジジュース貰うねー。」と言って私の貴重なお昼を横領して行った。
その日の帰り私はカラフルで大きくて見た事ないものを探し求めた。
もちろん、あるわけない。
「んー、、。」
ベンチに座って考えているとポケットの中でスマホが通知を知らせた。
見るとバイトの店長からで『急遽佐々木さんが休みになっちゃったんだけど仕事はいつもと変わらず宜しくね〜』と入っている。
ヤバい!今日、バイトじゃん!
定時の五時になんとか間に合い、私はお昼担当の人とバトンタッチした。私は駅近のアイスクリーム屋でバイトしている。店長が凄い気さくな人で店員同士の仲も良く凄くいいお店だ。
私が担当している時間は近所の高校生とかがよく買いに来るので割と忙しくなる。普段は三人で行う仕事を今日は店長と私だけなので倍以上に忙しかった。
定時になり、店長は『ゴミ捨て宜しくね〜』と足早に帰ってしまい、面倒なゴミ処理が私に任されてしまった。
残ったアイスクリームをショーケースから取り出して専用の箱に詰める。
先週新作として届いたミントアイスクリームが死ぬほど残っている。目が覚めるぐらいの青色で見た目はいいが味は良くないみたいでリピーターは皆無のアイスだった。
ひたすらゴミとして破棄するためにアイスを取り出しているとふとある考えが私に浮かんだ。
『カラフルで大きくて見たことがないものがないなら自分で作れば良い』!
作った後にゴミとして捨てれば良いのだ。
私はまだ廃棄していないアイスを見つめて作る構想を練った。
朝起きるとスマホのロック画面が凄いことになっている!
【〇〇さんがあなたの投稿をいいねしました】と言う類の通知がいくつも来ている。
私は確実な手応えを感じた。
昨夜は結局夜の九時ぐらいまで店にいた。でもそれだけの価値がある作品を作ることができた。
大量に残ったミントのアイスクリームをベースにして富士山を作ったのだ。
「おはよー」
いつもに増して笑顔の私と一分に一回ぐらいの間隔で鳴り響く私のスマホの通知に兄は不審な顔をしている。
「なんかあった?」
「何にも笑笑」
兄も一応私のアカウントをフォローしているからきっとSNSを開いてびっくりするはずだ。
早速学校に着くと私は彩の席に直行した。
「見て!」
「見たヨォ笑笑 凄いじゃん、あれがバズだよ」
彩は私のアカウントを開くと投稿欄をタップしていまのいいね数などを見せた。
いいね 5.5万 シェア 4万
今まで私のアカウントでは見た事のない数字だ、高まる心臓を押さえて私は席に戻った。
お昼になり、別のクラスの人が私のところにやって来た。
「笹田さん、だよね。SNSのアカウントみた方がいいよ、凄いことになってるから。」
凄いことってそんなの知ってるよーと言おうとして別のクラスの子達の形相に驚いて喉元で言葉を止めた。
「う、うん。わかった。」
彩と共にトイレに向かうとすぐにSNSを開いて私は驚愕した。
私の投稿写真が炎上していたのだ。
【何やってんだよ、食べ物大事にしろよwww】
【店特定完了!〇〇アイスクリーム!】
【これってバイトテロってやつですよね…】
【あーあ炎上しちゃったー】
【綺麗だけど、食べ物で遊ぶなってのww】
流石に彩も言葉を失って私のスマホを握ったまま黙っている。
ピロン♪【〇〇さんがあなたの投稿にはコメントしました。『食べ物で遊んじゃいけないって知らんの?』】
「廃棄物で作ったのに!考えらんない!」
私はスマホに指を走らせてそう返信した。
一度投稿する前に、コメントする前に考えましょう。炎上はあなたの人生を壊します。