ELGAMA #11話 ルガンデ編 #3
そこは、黒と白の二つの色が敷き詰められた空間だった。
少し狭いようにも見える。
「なんか、オシャレだね。」
そんな言葉がレイスの口を突いて出る。
「うん、まぁ、そうか。」
エリントは首を傾げながら言った。
背後と前方に戸があった。
「どっちから行く?」
「とりあえず前で。」
レイスは戸を開けた。
戸の奥も変わらない景色だったが、机と椅子が置かれていた。
「研究所にしては何もないな。」
机には白い紙が散乱しており、壁には、何かが貼ってあった。
「これは…」
貼ってあったのは、エルガマの地図であった。
「なんで貼ってるんだろ。」
「ただ、エルガマが好きなんじゃないか?」
エリントはそう言いながら、レイスの方を、強いて言えば顔をなぜか凝視している。
「なに?」
「いや、特に、な。」
散らばっている紙には何かが書いてあった。
誰か宛ての手紙のようだ。
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拝啓 スェルン殿
先日申し上げました、乱光雑法の件なんですが、どうにかして研究結果を認めていたただけませんでしょうか。
ツフリウムをレイヨハウスという成分に変え、意識を集中させることで木、闇、の2つを呼び出したり、操ることができる。
ツルギオンがないとツフリウムは作れないが、実は人体にも少しだけ含まれている。
その僅かなツルギオンを一箇所に集め、物体を作り出す。
レイヨハウスを吸い込むと、自分で呼び出すものを増やすこともできる。
というものです。
これは戦闘に役立ちます。御社の商品に使っていただければ、役に立つと思います。
どうかお願いします。
敬具
フェリオスアン•イリエンセ
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「イリエンセって、研究者だけどまだ収入は安定してなかったっぽいな。」
エリントがそう言って、手紙を脇に置いた。
その下には、また手紙があった。
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拝啓 フェリオスアン•イリエンセ殿
貴殿がおっしゃった乱光雑法の件ですが、お断りさせていただくことにしました。
やはり情報が少なく、よくわからない技を世間に広げるわけにもいけず、尚且つ光雑法のほうが使いやすいという結果がありますので。
誠に申
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そこで手紙は途切れていた。
というより、何者かによって引き裂かれていた。
「誰だ?こんなことするヤツは。」
エリントは手紙を人差し指と親指でつまんで言った。
「これじゃ見えないじゃないか!」
「もっと他の情報はないのか?」
エリントは積み上げられた紙の山を漁り始めた。
「なんだこれ。設計図、じゃないな。」
エリントは、何かが薄く書かれた紙をレイスに差し出した。
「よく見るとこれ、なにかの仕組みの図だよ。」
恐らくだが、光雑法の仕組みだろう、難しい文字や名前が並んでおり、所々に走り書きのメモがある。
________今は木、闇だけ
________戦闘に役立つ
などだ。
「これをやれば、倒せるんじゃないか?アンドロヨイムを。」
いつの間にか紙を取っていたエリントが、紙を見て目を細めたり太くしながら言う。
「だって、ほら、ここ、ちょっと読みにくいけど[相手の風攻撃でいなされない。]って書いてある。」
アンドロヨイムの風攻撃でもいなされないのかは不安だが、今は信じるしかない。
「目を瞑り、意識を集中させる…」
エリントが目を瞑り、言った。
すると、エリントの手から少しだけ紫色の物体が出た。
闇の光雑法のようだ。
「見たか!簡単に出たぞ!」
エリントがもう一度目を瞑って言う。
今度はもう一回り大きい物体が出た。
吸い込まれてしまいそうだ。
「僕もやる。」
レイスは目を瞑り、自分に意識を集中させた。
心臓の鼓動の音だけが聞こえる。
世界は今、レイスだけになった。
何一つ動かない。
体中のなにかが突き出した両手に集まってゆく。
指先が震える。
それどころか腕全体が震えだす。
________一瞬、世界が止まった。
次の瞬間、地面から大きな木が生えた。
レイスとエリントを並べても端から端までの太さには勝てないほどだ。
「出したのが木でよかった。闇だったらその辺のもの、片っ端から吸い込んでたぜ。」
初めてにしては、上出来すぎた。
いきなり巨大な木を生やすなんて。
「お前が使えるんなら、俺は覚える必要はないな。とりあえず外に出ようぜ。」
エリントに言われ、レイスは外に出た。
「そんなに威力があるんなら、もう倒せるんじゃ無いか?」
「いや、さすがに生身は無理だよ。」
武器も持たず魔法だけを武器に戦うなんてごめんだ。
「その辺に剣でも落ちてないか?ないんだったら、俺が持ってる剣の一つや二つやるが。」
レイスは辺りを探してみたが、剣は落ちていなかった。
「落ちて無いよ。」
「なら、これやるよ。」
エリントはそう言って剣をレイスに投げて寄越した。
「ありがとう。」
そこまで強そうでもない普通の剣だ。
「よし行くぞ!アンドロヨイム討伐だ!」
11話↓