plants world なんのひねりもない物語  #3 夜らしき闇

7 2022/03/29 22:12

「それで、わしに何か用か?」

しばらく話を進めようと試みたのにも関わらず、何も話してくれなかった老人だったが、とうとう話が一歩進んだ。

 ここまでゴマをすったことは人生で一度もなかった。

これも一種の経験ということにしておいたら、怒りも湧いてこなかった。

「はい、実は、僕、あちらに見える山へ行きたいんですが、行き方を教えてもらってもよろしいでしょうか」

「山? あぁ、あそこだな、わしもあまり行ったことはない。話を原点に戻してすまないが、なぜ聞く必要があるのじゃ? 山なんぞ登り方を聞くまでもないじゃろう」

言われてみればそうだ、なぜ僕は山への行き方などを聞いているのだろうか。

そんなこと、聞くまでもないはずなのに。

何かがおかしい。僕はそう確信した。

でも今は、考えるには情報が少なすぎる。

 この世界には何かあるはずだ。

「ええと、山までの道は分かりますか?」

僕が聞くと、老人は遠くの方を指差してこう言った。

「あっち」

あまりにも単純かつ簡潔な文に憤慨した。

 老人の指差す方向には、果てしない道路が続いている。

その後何回聞いても老人は耳を貸さなかったので、一旦老人に聞くのはやめ、大人しく道路を歩いて行くことにした。

 気づけば、町には人が見当たらなくなっていた。

僕だけが1人、町を歩いていた。

辺りはみるみる暗くなり、すっかり夜に近い状態になってしまった。

 方角がまるで分からない。街灯が無いためだ。

僕は1人立ち往生するしかなかった。

だがそんなとき、暗い視界の中で、光を発するなにかが遠くに見えた。

 家だろうか。

辺りに灯りもないため、僕の体はひとりでに、安心できる光へと歩きだした。

 近づいてみて分かったことは、この光は予想通り家のものだった、ということだ。

だが、誰の家かも分からないし、ノックしようにも扉が見つからない。

 そんなことをしていたら、何故か辺りが明るくなってきた。

空を見ると、昼のような明るい空が広がっていた、さっきの暗さが嘘だったみたいに。

家を後にしようとすると、どこからか声が聞こえた。高めの、男性の声だ。

「よう坊主。」

辺りを見回していると、背後にあった家の窓が音を立てて開いた。

 ゴゴゴゴという音がなり、錆び付いた古い家を連想させた。

そして、ワタルが家の中から身を乗り出してきた。

「こんにちは、ワタルさん」

「というか、ここはワタルさん

ワタルは不思議そうな顔をして言った。

「よう、てかお前、夜だってのに何してるんだ。」

「夜? 夜って、さっきの暗い時のことですか?」

ーー夜にしては短すぎる気がすぎじゃないかな…

ワタルは頭を一度掻いてから、口を開いた。

「あぁ、ま、ここは上とは違うんだ。もちろん時間軸もな。」

ガバガバな説明だったが、僕はその情報を信じるほかなかった。

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その他2022/03/29 22:12:18 [通報] [非表示] フォローする
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各地で桜が咲き始め、春を彩る今日この頃。

皆さまいかがお過ごしでしょうか。

申し訳ありません、またまた遅くなってしまいました…ヽ( ̄д ̄;)ノ


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