plants world なんのひねりもない物語 #3 夜らしき闇
「それで、わしに何か用か?」
しばらく話を進めようと試みたのにも関わらず、何も話してくれなかった老人だったが、とうとう話が一歩進んだ。
ここまでゴマをすったことは人生で一度もなかった。
これも一種の経験ということにしておいたら、怒りも湧いてこなかった。
「はい、実は、僕、あちらに見える山へ行きたいんですが、行き方を教えてもらってもよろしいでしょうか」
「山? あぁ、あそこだな、わしもあまり行ったことはない。話を原点に戻してすまないが、なぜ聞く必要があるのじゃ? 山なんぞ登り方を聞くまでもないじゃろう」
言われてみればそうだ、なぜ僕は山への行き方などを聞いているのだろうか。
そんなこと、聞くまでもないはずなのに。
何かがおかしい。僕はそう確信した。
でも今は、考えるには情報が少なすぎる。
この世界には何かあるはずだ。
「ええと、山までの道は分かりますか?」
僕が聞くと、老人は遠くの方を指差してこう言った。
「あっち」
あまりにも単純かつ簡潔な文に憤慨した。
老人の指差す方向には、果てしない道路が続いている。
その後何回聞いても老人は耳を貸さなかったので、一旦老人に聞くのはやめ、大人しく道路を歩いて行くことにした。
気づけば、町には人が見当たらなくなっていた。
僕だけが1人、町を歩いていた。
辺りはみるみる暗くなり、すっかり夜に近い状態になってしまった。
方角がまるで分からない。街灯が無いためだ。
僕は1人立ち往生するしかなかった。
だがそんなとき、暗い視界の中で、光を発するなにかが遠くに見えた。
家だろうか。
辺りに灯りもないため、僕の体はひとりでに、安心できる光へと歩きだした。
近づいてみて分かったことは、この光は予想通り家のものだった、ということだ。
だが、誰の家かも分からないし、ノックしようにも扉が見つからない。
そんなことをしていたら、何故か辺りが明るくなってきた。
空を見ると、昼のような明るい空が広がっていた、さっきの暗さが嘘だったみたいに。
家を後にしようとすると、どこからか声が聞こえた。高めの、男性の声だ。
「よう坊主。」
辺りを見回していると、背後にあった家の窓が音を立てて開いた。
ゴゴゴゴという音がなり、錆び付いた古い家を連想させた。
そして、ワタルが家の中から身を乗り出してきた。
「こんにちは、ワタルさん」
「というか、ここはワタルさん
ワタルは不思議そうな顔をして言った。
「よう、てかお前、夜だってのに何してるんだ。」
「夜? 夜って、さっきの暗い時のことですか?」
ーー夜にしては短すぎる気がすぎじゃないかな…
ワタルは頭を一度掻いてから、口を開いた。
「あぁ、ま、ここは上とは違うんだ。もちろん時間軸もな。」
ガバガバな説明だったが、僕はその情報を信じるほかなかった。
各地で桜が咲き始め、春を彩る今日この頃。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。
申し訳ありません、またまた遅くなってしまいました…ヽ( ̄д ̄;)ノ