【ハロウィン小説】カボチャ配達 前編
この小説は、『前編』『後編』の二つに分かれています。これは前編です。
後編はこちらから↓
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10月31日、夜。
世間は俗にいう「ハロウィン」で盛り上がっており、インターネット上でも様々なイベントが行われている。
特に出かける予定もなかった暁人(あきと)は、ベランダで夜の空気を吸っていた。ひんやりした風が全身に感じられ、なんとも心地が良いのだ。
今日の月は満月——正式な満月は一昨日だったが——で、夜に似合わず眩い光を放っていた。暁人は頬杖をついて、その月をぼーっと眺めていた。
その時だった。
月の真ん中に、"黒いシミ"ができた——いや、月との間の空に物体が現れた、という方が正しいだろうか。
"それ"はどんどん大きくなっていく。人一倍に目がいい暁人は、"それ"の正体を突き止めることができた。
「…カボチャ…?」
"それ"は巨大なカボチャだった。しかも、自在に空を飛んでいる。3回転ひねり、バク宙…。
そして暁人は、カボチャがこちらに向かってきていることに気がついた。
もしや、UFOだったのか…?
カボチャが近づくにつれ、プロペラもないのに、ヘリコプターが近づいたかのような強い風が吹いてきた。
つ、捕まる…!
暁人がギュッと目を瞑った途端、風向きが変わった。
風は次第に右側から吹いてくるように移り変わった。
横に逸れた…?なんだったんだ?夢か?
暁人は唖然とカボチャの向かった方角を見つめていたが、ハッと我に返ると、ベランダを飛び出してリビングへ向かった。
「母さんっ!」
「どうしたの?」
母は、父と一緒にソファでテレビを見ていた。
「ご、ゴミ捨て行ってくるよ」
「え?」
「いいから、ほらっ」
暁人は母をソファから無理やり引き上げると、キッチンに連れていき、ゴミ袋を受け取った。
「いってくる!」
「い、いってらっしゃーい…」
暁人はドアを薙ぎ倒すかのような勢いで外に飛び出し、つまずきそうになりながら駐車場に向かった。
カボチャは一つではなく、大きな一つのカボチャの周りを、小さな複数のカボチャが囲うようにして車の前に落ちていた。いや、不時着というべきか…?
しかし、そこにあったのはカボチャだけではなかった。
「ふんふふ〜ん♪」
ジュースを片手に持った少女が、カボチャの上に跨っていた。紫色のショートヘアを細かに揺らし、カボチャの刺繍が入った、闇に紛れるような黒色の服を身につけている。
暁人はあっけに取られ、ジュースを飲む少女を見つめていた。
「疲れたね〜。あと3軒行ったら終わりだから頑張ろうね、カボチャ号!」
少女は跨っている大カボチャの方を見て言った。途端に、大小のカボチャは鳴き声のような音を発してゆらゆらと自由に動き出した。
生きたカボチャ…?お化けか…?はたまたカボチャに似た地球外生命か…?
すると、少女は満足そうな笑みを浮かべ、顔を上げた。その時にたまたま暁人と目が合った。
「あ」
「あっ!」
少女は「よっ」とカボチャ号から飛び降りると、暁人の元へ駆け出してきた。
「人間? ちょうどよかった! ちょっと手伝ってくれない?」
「て、手伝う…??」
「そ!」
とりあえず、危険ではない、と捉えてよさそうだ。少女は言葉を続けた。
「私、カボチャの妖精! これから、死者の国でパーティがあるんだ」
「死者の国って、スケルトンとかゾンビとか?」
「ご名答。今はそこの人らは寝てるんだけど、今のうちにパーティのためにカボチャさんを届けに行かないといけないんだ」
寝ているうちに物を配りに行く——なんだかサンタみたいだな、と暁人は思った。
「でも、心配されるから、たぶん力にはなれないかも…」
おそらく、一軒ずつ回るということだろう。そしたらとんでもなく時間がかかるはずだ。
「大丈夫! あっちとこっちでは時間の流れが違うから。帰ってきた時も現世では2分くらいしか経ってないんじゃないかな?」
「そうなんだ…」
「そうと決まれば出発! さぁ乗って!」
暁人はほぼ強引にカボチャ号に座らせられた。カボチャ号には、両手に乗るくらいのサイズの小さなカボチャが数個乗せられていた。おそらく、届けに行くカボチャだろう。
「しゅっぱーつ!」
少女の威勢のいい掛け声を合図に、カボチャ号が空に飛び上がった。街がみるみる小さくなっていく。そして、雲のすぐ下辺りまで来ると上昇は止まった。
後ろを振り返ると、先ほど大きなカボチャの周りにいた小さなカボチャが列を成してついてきていた。カボチャ間には鎖や紐を始め、カボチャと繋ぎ止める物が何一つなかった。小さなカボチャ達は知恵を持ってついてきているのだろう。
「最初はあそこの家だね」
少女は遠くの赤い屋根の家を指差した。
いつの間にか死者の国へ移動していた。街や家のつくりは現世となんら変わらない様子なのに、何故だか異様な雰囲気が漂っていて、暁人は背筋を凍らせた。
その時、カボチャ号に乗せられている小さなカボチャ達が、暁人の胸元に飛び込んできた。いくら小さいといっても、あの固いカボチャであることに変わりはない。
「ぐぁっ…!」
カボチャの一撃を喰らい、暁人はよろめいた。
「ご、ごめんね! 荷カボチャ達、人懐っこくて…」
「大丈夫…」
荷カボチャ達は、眉(のようなもの)をひそめて近寄ってきた。謝罪の意を示しているらしい。
暁人が荷カボチャの頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細めた。
「着いたよ!」
少女は暁人の方を振り返って言った。
カボチャ号は、赤い屋根の家の外壁まで近寄った。
「どこから入るの?」
「壁」少女は当然のことのように答えた。
「えっ」
迷いもなく、カボチャ号は壁に向かって発進した。
ぶつかるかと思ったが、カボチャ号は二人を乗せたまま外壁をすり抜けた。
「このカボチャ号、いろんな機能があるんだ!」
少女は自慢げにそう話した。
二人はカボチャ号から降りた。途端に、カボチャ号は壁の外に消えていってしまった。
「一度外へ出たのよ。あんな大きいの、すぐバレちゃうでしょ?」
暁人が言おうとしたことを察したのか、少女は言った。外の方がバレるのでは、と思ったが、透明にでもなっているのだろう、多分…。
「カボチャはどこに置くの?」
暁人はいつの間にか荷カボチャを腕に抱えていた。
「寝床よ」
「ね、寝床?」
サンタみたいだな、と再び暁人は思った。
「カボチャ号ってちゃんと帰ってくるの?」
二人は階段を上り始めた。寝室は2階にあるらしい。
「当たり前よ。コンビ歴何年だと思ってるの?」
「‥2年?」
「2年半ね」
「年1なのに?」
少女は答えなかった。
その時だった。
「だあれ?」
二人は衝撃で飛び上がり、声のした方を見た。
その姿を見て、暁人はまた飛び上がった。
子供のガイコツだった。しかも動いている。
「僕今からトイレに行くの。起きてきたんだけど、やっぱり怖いから、お姉ちゃんついてきて」
「え、えぇ〜…私?」
少女は明らかに嫌そうな反応を示したが、子供相手に強く出れず、結局ついていくことになった。暁人もここに留まりたくなかったので同行した。
「そこで待っててね! 帰ったらだめだよ!」
子ガイコツはそう釘を刺すと、トイレの戸を閉めた。二人は近くの壁にもたれて座った。
「子供でよかった…。大人のガイコツに見つかってたら…」
「何かいけないのか? 見つかったら」
少女は遠くを見つめて話し始めた。
「…このカボチャを届けるのは、妖精の仕業って言われてるの。実際そうなんだけどね。でも、妖精っていうのは縁の下の力持ちが絶対で、存在を公にしてはいけないとされてるのよ。大人ってすぐ言いふらすでしょ? でも幼い子供ならその可能性は低い。親に言うかもだけど」
少女のただでさえ虚ろな目が、不安で歪んだような気がした。
「…でもさ」
ふと声が漏れ出てしまい、ハッとする。少女に見られたので、暁人は仕方なく話し始めた。
「ほら、子供っていろんなもの見てるし…幽霊とか。だから、妖精を見たって言われても、親はそこまで深く考えないんじゃない…かな?」
ここは死者の国であって、人間界の常識とは少し違うのではないか、そう思ったのは、既に言ってしまった後だった。
「ご、ごめん、人間界の話だし、関係ないかも…」
「ううん、分かるよ。その話。だって——」
言葉はそこで終わった。トイレの戸が開いたのだ。
「あ! 1人で出来てえらいね!」
少女は子ガイコツの元に近寄って、頭を撫でた。子ガイコツは嬉しそうに笑った。
「…さっき、なんて言おうとしてたの?」
暁人の質問に、少女は静かに目を瞑った。数秒の沈黙。
「…なんにも」
そう言って、少女は子ガイコツと歩き出した。
暁人はどうも納得できないまま、その後に続くのだった。
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