【クリスマス総選挙・小説部門】赤い雪
※一部グロテスクな描写が含まれます
クリスマスイブの夜、街は美しく飾られたツリーやイルミネーションに輝き、人々の笑顔で溢れていた。しかし、郊外のある廃墟には、そんな温かな光景とは正反対の光景が広がっていた。そこには血と絶望の匂いが漂っていた。
探偵の滝川は、一通の匿名の手紙を受け取った。
「聖夜に開かれる悪夢の宴、赤い雪がすべてを語る。」
手紙には教会の名前と住所、そして不気味な絵――人間の手を模したクリスマスツリーが描かれていた。そのイラストが脳裏に焼き付いた滝川は、悪い予感を抱きながらも現場へ向かった。
指定された廃墟の教会に到着すると、辺りは深い静寂に包まれていた。吹雪が激しさを増し、赤黒く染まった雪が地面に薄く積もっている。滝川はそれを見て、思わず息を呑んだ。それはただの雪ではなく、血の滴で赤く染められていた。
扉を押し開けると、異様な光景が目に飛び込んできた。礼拝堂の中央には巨大なクリスマスツリーが立っていた。しかし、それは木ではなく、人間の四肢や胴体を縫い合わせた grotesque な彫刻のようなものだった。装飾の代わりに、真っ赤な内臓がツリーの枝から垂れ下がり、電飾のように輝く蝋燭が無数に突き刺さっている。
滝川は吐き気をこらえながらも、ツリーの下に置かれたプレゼントボックスに目を向けた。箱を開けると、中には何かの顔の皮が綺麗に剥がされて折り畳まれていた。そしてその下にはメモがあった。
「ここに集え、罪深き者たちよ。救済の鐘が鳴るとき、お前たちの最後の夜が始まる。」
滝川は警戒しながら礼拝堂をさらに調べた。床には血で描かれた奇妙なシンボルが広がり、壁には「贖罪」の文字が無数に刻まれている。奥の部屋へ向かうと、そこにはさらに異様な光景が待っていた。
小さな部屋の中心には、まるで生け贄のように吊るされた若い女性の遺体があった。彼女の両手は鎖で吊り上げられ、腹部は深く切り裂かれている。その体内には、クリスマスの飾りのように何かが詰め込まれていた。滝川は恐る恐るその中身を確認した。出てきたのは、鮮やかに染められた髪の束や、子供の小さな手足だった。
その時、背後から不意に低い笑い声が響いた。滝川が振り返ると、そこにはサンタクロースの格好をした男が立っていた。だが、そのサンタはどこか歪んでいた。仮面をつけた顔の目の部分からは狂気じみた光が覗き、血にまみれた手には巨大な肉切り包丁が握られていた。
「ようこそ、我が聖夜の宴へ。」
男の声は低く、どこか陶酔したような響きだった。
滝川は一歩後ずさり、周囲を見渡した。逃げ道はない。狭い部屋に追い詰められた滝川に、サンタはゆっくりと近づいてくる。
「お前もプレゼントに加えてやる。美しいツリーの一部にしてやろう。」
滝川は咄嗟に床に転がっていた鉄棒を拾い、男に向かって振り下ろした。だが、男は素早くかわし、包丁を振り上げた。その刃先が滝川の腕をかすめ、深い傷を残した。滝川は痛みに顔を歪めながらも反撃し、鉄棒を力いっぱい男の頭に叩きつけた。
男が崩れ落ちた隙に、滝川は部屋を飛び出した。礼拝堂へ戻ると、また別のサンタクロースが現れ、両側から迫ってきた。彼らは口々に「聖なる夜に贖罪を」と呟きながら、滝川を追い詰める。
滝川はどうにか鐘楼への階段に駆け込み、上階へ逃れた。鐘楼から見下ろすと、教会の周囲にはさらに多くのサンタが現れ、手に刃物や鎖を持って徘徊しているのが見えた。
滝川は鐘楼の鐘を力いっぱい鳴らした。その音が冷たい空気を切り裂き、周囲に響き渡る。するとサンタたちが一斉に顔を上げ、狂ったように叫び声を上げ始めた。
「鐘は全てを終わらせる!」
彼らの言葉とともに、突如として教会の地下から爆発音が響いた。次の瞬間、礼拝堂全体が炎に包まれた。滝川は命からがら鐘楼から飛び降り、深い雪に埋もれることで何とか命を繋いだ。
その後、教会は跡形もなく崩れ落ち、赤い雪は夜が明けるまで降り続けた。警察が現場を捜査するも、犯人たちの痕跡は一切見つからず、ツリーに使われていた遺体の身元も未解明のままだった。
滝川はあの夜の出来事を思い出すたび、胸に冷たい痛みを感じる。聖夜はもう二度と純粋な祝福の象徴ではなくなった。赤い雪は全てを覆い隠し、悪夢だけを残して去っていったのだ。
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神文章と素晴らしい後味の悪さ…ありがとうございます、おかげで間食欲がおさまって痩せられそうです。
ああ好き、、、、、怖い、、、、なんなんだろう?この不思議な感じ?がすっごい刺さった、、