イヴのショートケーキ

8 2024/12/09 15:07

僕は昔、孤児院で育てられた。

ハロウィンやクリスマスの行事なんてなく、酷く横暴な院長に、口の悪い雇われ、粗末な食事。

孤児院とは名ばかりで、町では子供の収容所として有名だった。

そんなある日だった。

「おいお前ら!!今日の晩飯だ!」

僕たちは一瞬目を疑った。

「いいからさっさと食え!!!」

そこにはいつもの粗末な食事の他に僕たちの憧れとも言える、小さいながらもショートケーキがちょこんと皿に乗っていた。

「い、いただきます…」

「いっただっきまーーす!!」

本当に食べても良いのか、とチラチラと雇われ、通称マザーを見ておずおずと食べ始める者。

ここぞとばかりに勢いよく食べ出す者。

「「美味しい…!!」」

食事開始から20分。

ほぼ全員がショートケーキを食べ終えていた。

まだショートケーキが皿に残っているのは僕と斜め向かいの女の子だけ。

僕はなんとなくこの白いふわふわを食べる気にはなれなかった。

粗末な食事は変わらないのに今日に限ってケーキなんて高級なものを出してくる。

気味が悪くてとても食べられなかった。

「ね、ねえ…誰か僕のケーキ食べてくれないかな、?」

そう呼びかければすぐに人が集まってきて僕のケーキを賭けた盛大なジャンケン大会が開かれる。

「もういいや、ご馳走様。」

僕は椅子を引いて席を立った。

————————————

この孤児院は確かに環境は劣悪だが、2人で一部屋をあげるくらいの余裕はあった。

食後から1時間以上経った頃、僕は相部屋の子と話し込んでいた。

「それでね!明日から、は、ゆき…が……。」

僕の視界から突如として相部屋の友人が消える。

僕は慌てて友人の腕を取って脈を測る。

「…!!起きて、ねえ、起きてよ!!!」

脈はあった。

でも呼吸はとんでもなく浅くて、すぐにでも死んでしまいそうだった。。

「あ…大人、大人を呼びに行かなきゃ!!」

そう言って廊下を走っているとふと思い立つ。

「院長は本当に助けてくれるのかな、」

そう思った瞬間、この孤児院に味方がいない気がしてきた。

そこて僕は隣りの部屋の子に助けを求めることにした。

「ねえ!入ってもいい!?」

ドンドンドンとどれだけドアを叩いても返事がない。

嫌な予感を感じつつも僕は扉を開ける。

「…倒れている、!」

「2人とも、脈がない……」

その時、僕の頭に一つの仮説が思い浮かんだ。

決してそうあってほしくない、そんな仮説。

「まさか、あのショートケーキが…??」

そう思って呆然と立ち尽くしていると背後から足音が迫ってきた。

「まだ坊やが1人残っていたのか。」

「マザー、!?」

「欲に打ち勝ち、生き残った坊やには特別に教えてやろう。」

そう切り出し、マザーはにこりと微笑む。

「今日出たショートケーキ。あれはある種の毒だな。孤児院特製のショートケーキだ。」

「どく、…??じゃあもしかして皆んなの脈が無かったのって、、」

「ああそうだ、毒の効果だろうな。」

さもなんでもないことのように話すマザーに僕はどこか殺意に似たような感情を持った。

「お前、今日はなんの日か知っているか。」

今日は12月24日。

「クリスマスいぶ?」

「そうだ、クリスマスイヴだ。この孤児院に入る時、お前はこんな言葉を言われたはずだ。」

『この孤児院では牛乳や生クリームといった乳製品は食べられない。』

「そういえば…。」

「言ったはずだ、この孤児院は通称『子供の収容所』だと。この孤児院では生まれつき牛乳アレルギーのある子供を集めている。」

牛乳アレルギー?

「……なんで?」

「ここの院長は数十年前、妻と子供がいた。だが2人とも重度の牛乳アレルギーを持っていた。ある日訪れたレストランで不覚にも乳製品を口にしてしまった2人はそのまま呼吸困難で死んでしまった。」

「そこで院長は過度な牛乳アレルギーを持つ孤児を片っ端から集めた。」

「思い出せ、生き残りの坊や。昨日、やけに体調不良を訴えるやつが多かっただろう?」

「うん、確かにみんな頭痛いとか吐き気がとか、しょうはバラバラだったけどみんな言ってたよ。」

「それは一昨日の料理に仕込まれた伏線さ。わざと料理に細菌を繁殖させ、それをお前らに食わせた。」

菌?きのこだろうか。

いや違う。

これは…

「見事に体調を崩したお前らは今日、生クリームを食っちまった。そのまま呼吸が出来なくなってここにいるやつらは死んだ。」

                                          

エデンの園。

策略にハマり、言いつけを守れなかった僕たちはこの世から追放された。

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知識ほぼ0で書いてるのでただのフィクションとして読んでもらえれば。


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