おわりの時間※百合注意
「卒業まであとちょっとだね」
三葉(みつば)がそんなことを言ったとき、私はどう反応すればいいのかわからなくなってしまった。
そうだね、なんて笑おうとも笑顔を上手く作れるとは思えない。
「は、早かったね〜」
違う方を向いて、自分の顔がバレないようにした。
なんとなく寂しいより怖いの気持ちが先行したけど、普通を装った。
「寂しいね本当」
今にも眠ってしまいたいくらいに辛いのに、太陽は勇ましくてりてりと輝いている。
あんなふうになれたらいいのになぁ、なんて種族どころか惑星にそんなことを思ってしまっていた。
無言の時間がやけにうっとおしくて、何か会話を繋げたくなった。
それでも言葉は浮かんでこず、三葉が何か言ってくれるのを待つしかなかった。
「…喉乾いたなぁ〜。自販機で水買ってくるけどなんかいる?」
「コーラ、てかお金出すよ」
いい感じに話題を出してくれたおかげで、なんとかモヤモヤは消えた。
いいよいいよ、という感じに三葉が自販機に走って行った。
ずっとなんだか頼りっぱなしで、自分が情けなく思えた。
「おまたせ〜」
「あ、ありがとう」
コーラでも飲んでぱーっと気分を変えたかったけども、ぐにゃぐにゃした今の状況には大好きな飲み物も効果なしみたいだ。
「おいしい?」なんて笑顔で尋ねてきた三葉に、また顔を隠してうんと頷く。
コーラを飲もうという気も気付けばなくなってて、ただ壁にもたれかかっていた。
というか状況を説明し忘れていたが、今は三葉のおばさんちで勉強中だ。
ふすまを開けると庭が見える廊下みたいなものが出てきて、そこで座っている……いまここ。
だからすぐに靴を履けば自販機まで走って行けるし、「便利だ」と三葉は笑っていた。
でも、もう冬休みが終わればすぐ…なんてことを思い出したらなにもできなくなる。
勉強はひとまず休憩、という形になっているけども、実際は遊びに来ました感満載。
「上手く行ってる?最近は」
クカッ、とペットボトルのフタが開く音がした。
「ん〜…先輩の高校 いいとこだからね、合格できたらいいなぁ」
三葉の恋愛話。
すなわち、これは失恋ということ。
私がいくら三葉にアプローチをかけても、先輩に恋をしている三葉はどうすることもできないのだ。
「だから、そろそろ休憩終わろうかなーって」
「あ、本当?」
私が手を伸ばすと、三葉は綺麗に避けた。
「ん、そっちも勉強しなよ」
「……ううん。あとで行くよ」
「わかった〜〜」
三葉がいないと何の意味もないけど、今だけはここでゆったりとしていたかった。