【バレンタイン総選挙】「I don't need anything but yours」
2月14日、とある放課後の学校の生徒玄関から2人の男子生徒が外に出て帰路に着いていた。その2人とは俺、尾黒 葉介(おぐろ ようすけ)と後輩である旦元 日彩(あしもと ひいろ)である。
「はぁ…なんで俺、先輩と一緒に帰るんすか…?1人で帰らないとチョコ貰えないっすよ?」
「別にいいだろ。それに、そもそも俺からしてみれば好きじゃない奴にチョコ貰っても別に嬉しくねぇしな」
呆れたように質問する日彩に対して俺は気怠げに答えた。俺たちの足はちょうど校門の辺りを越えていた。
「えぇ…!?いや、普通は少しは嬉しくなるものっすよ…強がりとかやめたほうがいいっすよ…?」
「前から思ってたがお前って俺に対しては生意気だよな…てか、彼女いる奴がそんなこと言って大丈夫なのか?」
これ以上俺の感覚について話していたら面倒臭いことになる気がした俺は少し話を逸らすことにした。
「はは、全然大丈夫ですよ!あいつはそんな嫉妬するタイプじゃないですし、そもそもこの場にいるわけじゃないんで何言ってもバレな…」
日彩が言い切ろうとした瞬間、後ろから只者ではないオーラを感じ、俺たちは一瞬で足を止めた。具体的には日彩の背後である。全てを察して自分は悪くないということは分かったが、それでも足は動かず、むしろ汗と鳥肌が止まらなくなってきた。そして、ついに背後の気配は口を開いた。
「へぇ…そんなこと考えてたんだ…ふふ…分かってるよね…?」
"気配"は左手で日彩の制服の襟を持っていた。そんな状態に怯えているのか、日彩は青ざめた顔で助けを求めるようにこちらを見てきた。その数秒後、"気配"は日彩を勢いよく引きずりながら引っ張っていった。
「あ、ちょ…助けてぇ!先輩!助けてぇ!!」
"気配"に引きずられながら助けを求める日彩に俺は作り笑いをしながら手を振ることしか出来なかった。
「はあぁぁぁ……こっわ…やっば…」
日彩と"気配"が見えなくなった頃に俺はやっと大きく息を吐くことができた。本当に怖かったのだ。あんな恐怖は小4の2学期初日に皆が自分の知らない宿題を提出し始めたとき以来だ。一応、"気配"の行った先と帰路は別の方向だったので助かった。
数分後、ようやく呼吸が安定すると、俺は全力疾走で家路を急いだ。理由としては、無駄にチョコを貰わないためだ。言っておくが、決して自惚れているわけではない。実際、去年はそれなりの数を貰ったのだ。幸い、バレンタインだからと言って告白してくる輩はいなかったので、困るようなことは一つを除いてなかったのだが、とにかく今年は貰わないようにしたいのだ。
そんなことを考えているうちに、家まで半分ほどのところまで来ていた。ふと夕日を眺めると少しいつもより輝いて見え、思わず足を止めてしまった。再び歩こうとしたその時、
「尾黒せんぱ〜〜い!!待ってくださ〜い!」
という声が後ろから聞こえた。声質的に日彩ではないが、それ以上に聴き慣れている声であった。俺が声に反応して振り向く前に声の主はすぐ近くまで来ていた。
「ふぅ…なんであんな全力疾走するんですか…少しは私のことも考えてくださいよ!だからモテないんですよ!?」
この日彩以上に生意気なことを言う後輩は甘宮 果步(あまみや かほ)と言い、日彩と同学年である。中学からの知り合いであり、生意気なのもそのせいかもしれない。
「無理言うんじゃねぇ…てか、モテねぇことはねぇよ…ほら、去年は結構チョコ貰えたし」
「あ、あの時は偶然ですから!それに過去の栄光に縋るのは見苦しいですよ!」
俺が言った正論に対して果步は焦りながらも答えた。昔からそうだが、こいつは生意気なくせに反撃に対してはあまり強くないのだ。
「そういやあん時すっげぇ悲しそうな顔してたよなぁ!結局チョコもくれなかったし…ったくよぉ、素直に褒めてくれりゃ良いのに、そんなに俺に幸せになって欲しくないのか?」
俺が笑いながら去年のバレンタインデーの話をすると、果步は急に俯いて返事をし始めた。
「いや、そういうじゃないんですよ…はは…おかしな話ですよね…大切な人の幸せが嫌なんて…はは…」
しかし、俯いている上に小声だったため、俺の耳にはあまり届いていなかった。
「んあ?なんか言ったか?……ま、とはいえ去年は無駄な荷物増えただけみたいなもんだったなぁ!やっぱ、お前から貰いたいもんだな!」
「え…?そうなん…ですか…?」
「そりゃそうだろ?好きでもない相手にチョコ貰っても嬉しくねぇからなぁ」
俯いた顔を少し上げながら言った果步に対して、日彩に言ったことと同じように返した。そして、果步はその言葉を聞くと、頬を赤くしながらカバンの中の物を取り出し、こちらを向いた。
「まぁ、そこまで言うなら仕方ないですね!ほら、今回は特別ですよ!感謝してください!」
と言い、果步はラッピングされた袋をを手渡してきた。おそらくチョコレートなのだろう。俺はそれを受け取りながら、
「ありがとよ!義理だとしてもやっぱ嬉しいな!」
と、笑顔で言った。
「ま、まぁ…義理だと思うなら義理でいいんですよ?」
「ん?どういう意味だ?ま、とにかくありがとよ!」
「はぁ…そんなのだから馬鹿になるしモテないんですよ…」
「モテるし馬鹿じゃないでーす!受験だって合格できたし!」
「えぇ!?良かったですねぇ!流石、私の先輩ですね!」
「手のひら返しすげぇなぁおい!?お前どっちの味方なんだよ!」
俺たちはそんな他愛もない会話をしながら赤く染まった空の下を歩いた。
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期間中に一週間の風邪引いたり生徒会の用事あったり大変でしたぜ
ちなみに1番書くスピードが速かったのは"気配"が出てくるところです…おっと、誰か来たみたいだ。