某精神病棟
傀儡よ、傀儡よ。傀儡よ、傀儡よ。わかっていながらなぜ背ける。傀儡よ、傀儡よ。傀儡よ、傀儡よ。
テレェッッッテテェレッッッテテェレッッッテ
そんな音を知らせるアラームが聞こえて、フナフナとヘナヘナと目を覚ますといつも通りの自宅のベットの上...でなく周りが祖父母の家のような和室の布団の上で、夢なのかと思ったが、夢だと思える時点で夢ではないことを理解した。そうして、その衝撃と、諸々の不安により硬直していたところに、スツスツと靴下のまま廊下を擦り歩くような音が聞こえて、イロイロとありえなく現実的な不安が先よりも、私の中で膨れ上がった。と思った束の間、サァッーと襖が開けられた。そこから出てきたのは、外見だけ見れば二十後半の女性、いや、まだ中学生程度の少女、それも違う、五十歳程の女性、いやこれも違う、トニカク掴みどころのない幼さと貫禄と、そして何よりそれらを忘れさせるほどの妖艶さに包まれていた。そうして私の寝ている布団のそばで座ってこちらの顔を見つめて、話しかけてきた。
「おはようございます。率直に言うと、行方不明になっていただきました。」
私は驚きすぎて声も出ずに、頭が真っ白になると言うのはこう言うことなんだなという、現実逃避のことを考えてふと我に帰った時には、私の頭の中には、不安と怒りと恐怖という三つ巴の負の感情の闘いが始まっていて、以前状況は変わらずじまいであった。そしてまたその女性が話しかけてきた。
「驚くこともあるでしょう、私の言ったことは真実です。今あなたは行方不明と世間一般には報道されています。そして、行方不明にしたのは私です、そして返す気もありません。そしてその世間からの記憶負けさせてもらいます。あなたに選択肢はありません。」
「何をしているの?私が何かしたっていうの?」
私がそう聞き返すのは精一杯だった。先からの硬直とこの女性の妖艶さ、そしてそれらが織りなす絶妙なる威圧感に絶対的強者が絶対的弱者に、いや、もっとわかりやすくするなら、子供が蟻の隊列を観察したり、途中の蟻を潰してみたりするような、そんなような気持ちで私を扱われている気がした。そして、アリは人間に対して、抵抗や、和平を結ぼうとしても、その圧倒的な実力差によって、殺されてしまうだけで、今私が行った質問はその抵抗に等しいものだったので、身体中から冷や汗が瀑布のように、流れ出るような感覚で、実際には幻覚だったのか、恐怖により、いて凍てつかされ、汗腺が働かなくなってしまったのか、どうなのかはわからない。
そしてまたその女性が話をし出した。
「あなたは、今から前の名前ですらありません、前の記憶ですらありません、前の存在でもありません、そして前の未来ですらありません、ただただ生まれ変わるだけなのです、博麗霊夢という、小さくちっぽけで、脆弱でストックの少ない、歯車として、生まれ変わるだけなのです。」
「だって、私の名前は博麗霊夢なんかじゃなくて、なくて、なく、て...」
「どうですか?もう思い出せないでしょう?それでいいのよ、あなたが生まれてからここまで、あなた自身で進んできた道、親に支えられながらも歩んだ道は、私が整備した道だったただそれだけのことなの、だから、何も思い出さなくていい、何も作らなくていい、何も残さなくていい。あなたはこれからも、これまでも、整備された道を歩んでいくだけなのよ。」

