ストックまおとゼラチンの百合小説2

3 2025/09/24 21:01

第二章 少しずつ近づいて

 金曜日の放課後。

 クラスのほとんどの生徒が部活動や帰宅準備に忙しく動き回る中、まおは一人教室の片隅で本を広げていた。

(全然集中できないわ……)

 何度もページをめくるが、頭の中で何かが引っかかっていて、どうしても物語に入り込めなかった。

 その理由は――隣の席のゼラチンにある。

「まおちゃん、今日も一緒に帰ろう?」

 突然背後から声をかけられて、まおは驚きのあまり本を落としそうになった。慌てて取り直しながら、ゼラチンを振り返る。

「毎回毎回、なんであたしと帰りたがるのよ?」

「だって、楽しいもん!」

 ゼラチンは全く躊躇することなく、明るい笑顔でそう答えた。

「……別に一緒に帰らなくても、いいじゃない」

「だめだよ! まおちゃんと帰るのが楽しみなんだから!」

「……なんでそんなに無邪気に言えるのよ」

 まおは気恥ずかしくなり、ふっと視線を逸らした。

 ゼラチンのことが嫌いなわけではない。むしろ、最初はうるさく感じたその無邪気さが、今では少し心地よくなってきていたことに、まお自身も気づいていた。

「……今日は部活とかないの?」

「うん! 今日はお休みだもん! だからまおちゃんと一緒に帰りたいの!」

 元気よく答えるゼラチンを見て、まおはまたため息をついた。

「わかったわよ……じゃあ、行く?」

「うん! いこういこう!」

 ゼラチンはまるで待ちきれないように、まおの隣を歩き始めた。

 二人は学校を出て、並んで歩きながら帰路につく。途中、ゼラチンは無邪気に周りの景色を眺め、時折何かに興奮して声をあげたり、道ばたで小さな虫を追いかけてはまおを驚かせたりした。

「ゼラチン、どこに行くのよ!」

「だって、あれ見て! あの虫かわいくない?」

「……虫なんて興味ないわよ」

「えぇぇぇっ、つまんないなぁ。まおちゃん、もっと楽しんでよー」

「だから、楽しんでるってば」

 そんなふうに会話をしながら歩くうち、まおはふと思った。

(なんだか、最近楽しいかも……)

 ゼラチンが無邪気に話しかけてくるたび、思わず笑顔を浮かべてしまう自分がいた。

(ほんと、変な子……)

 そんなことを考えていると、突然ゼラチンが立ち止まり、まおを見上げた。

「ねえ、まおちゃんってさ、誰かに好きって言われたことある?」

「え?」

「だって、まおちゃんすっごくかっこいいし、絶対モテるでしょ?」

 ゼラチンはあっけらかんとした顔で言うが、その一言がまおの心に引っかかった。

「べ、別にモテないし!」

「えー、絶対そんなことないよ! みんなまおちゃんのこと好きだって!」

「そ、そんなことないから!」

 まおは慌てて顔をそらし、歩き始める。ゼラチンの視線を感じるのが恥ずかしかった。

(なんでこんなこと気にしてるんだろ……)

 胸の奥が少しだけ、ぎゅっと締め付けられるような感覚がした。

 その帰り道の途中、二人は小さな公園を通りかかった。

「ちょっと休憩しようよ!」

 ゼラチンは公園のベンチに座ると、バッグからおやつの袋を取り出して、まおに差し出した。

「ほら、食べてみて!」

「……そんなのいらないわよ」

「いいじゃん! こういうの、友達だから食べてくれるんでしょ?」

 ゼラチンは無理にでも押し付けるように、まおにお菓子を渡した。

 まおは少し迷ったが、結局それを受け取って口に運ぶ。

「……まあ、ありがと」

「わー、食べてくれた! やったー!」

 ゼラチンは嬉しそうに笑いながら手を叩いた。その無邪気な笑顔を見て、まおは思わずため息をついた。

「ほんとに……調子がいいわね」

「えへへ、だって、まおちゃんが笑ってくれると嬉しいもん!」

「笑ってないわよ」

「笑ってるじゃーん! 顔に出てるよ!」

 まおはついに顔を赤くしてしまう。ゼラチンはそれを見てにっこりと笑う。

「まおちゃんって、素直じゃないんだね。でも、だいじょうぶ! 私はまおちゃんのこと、もっと好きになっちゃうかも!」

「……何言ってるのよ、バカ」

「えー? でもまおちゃん、すっごくかっこいいんだもん!」

 ゼラチンの言葉に、まおは何も言えなくなった。

(なんでこんなに恥ずかしいんだろ……)

 二人はそのまま少し黙って、並んで公園のベンチに座り続けた。

 その時間が、まおにはなんだか心地よかった。

いいねを贈ろう
いいね
3

このトピックは、名前 @IDを設定してる人のみコメントできます → 設定する(かんたんです)
画像・吹き出し

タグ: ストック ゼラチン

トピックも作成してみてください!
トピックを投稿する
おもしろ2025/09/24 21:01:15 [通報] [非表示] フォローする
TTツイートしよう!
TTツイートする

拡散用



画像・吹き出し

トピックも作成してみてください!
トピックを投稿する