ストックまおとゼラチンの百合小説2
第二章 少しずつ近づいて
金曜日の放課後。
クラスのほとんどの生徒が部活動や帰宅準備に忙しく動き回る中、まおは一人教室の片隅で本を広げていた。
(全然集中できないわ……)
何度もページをめくるが、頭の中で何かが引っかかっていて、どうしても物語に入り込めなかった。
その理由は――隣の席のゼラチンにある。
「まおちゃん、今日も一緒に帰ろう?」
突然背後から声をかけられて、まおは驚きのあまり本を落としそうになった。慌てて取り直しながら、ゼラチンを振り返る。
「毎回毎回、なんであたしと帰りたがるのよ?」
「だって、楽しいもん!」
ゼラチンは全く躊躇することなく、明るい笑顔でそう答えた。
「……別に一緒に帰らなくても、いいじゃない」
「だめだよ! まおちゃんと帰るのが楽しみなんだから!」
「……なんでそんなに無邪気に言えるのよ」
まおは気恥ずかしくなり、ふっと視線を逸らした。
ゼラチンのことが嫌いなわけではない。むしろ、最初はうるさく感じたその無邪気さが、今では少し心地よくなってきていたことに、まお自身も気づいていた。
「……今日は部活とかないの?」
「うん! 今日はお休みだもん! だからまおちゃんと一緒に帰りたいの!」
元気よく答えるゼラチンを見て、まおはまたため息をついた。
「わかったわよ……じゃあ、行く?」
「うん! いこういこう!」
ゼラチンはまるで待ちきれないように、まおの隣を歩き始めた。
二人は学校を出て、並んで歩きながら帰路につく。途中、ゼラチンは無邪気に周りの景色を眺め、時折何かに興奮して声をあげたり、道ばたで小さな虫を追いかけてはまおを驚かせたりした。
「ゼラチン、どこに行くのよ!」
「だって、あれ見て! あの虫かわいくない?」
「……虫なんて興味ないわよ」
「えぇぇぇっ、つまんないなぁ。まおちゃん、もっと楽しんでよー」
「だから、楽しんでるってば」
そんなふうに会話をしながら歩くうち、まおはふと思った。
(なんだか、最近楽しいかも……)
ゼラチンが無邪気に話しかけてくるたび、思わず笑顔を浮かべてしまう自分がいた。
(ほんと、変な子……)
そんなことを考えていると、突然ゼラチンが立ち止まり、まおを見上げた。
「ねえ、まおちゃんってさ、誰かに好きって言われたことある?」
「え?」
「だって、まおちゃんすっごくかっこいいし、絶対モテるでしょ?」
ゼラチンはあっけらかんとした顔で言うが、その一言がまおの心に引っかかった。
「べ、別にモテないし!」
「えー、絶対そんなことないよ! みんなまおちゃんのこと好きだって!」
「そ、そんなことないから!」
まおは慌てて顔をそらし、歩き始める。ゼラチンの視線を感じるのが恥ずかしかった。
(なんでこんなこと気にしてるんだろ……)
胸の奥が少しだけ、ぎゅっと締め付けられるような感覚がした。
その帰り道の途中、二人は小さな公園を通りかかった。
「ちょっと休憩しようよ!」
ゼラチンは公園のベンチに座ると、バッグからおやつの袋を取り出して、まおに差し出した。
「ほら、食べてみて!」
「……そんなのいらないわよ」
「いいじゃん! こういうの、友達だから食べてくれるんでしょ?」
ゼラチンは無理にでも押し付けるように、まおにお菓子を渡した。
まおは少し迷ったが、結局それを受け取って口に運ぶ。
「……まあ、ありがと」
「わー、食べてくれた! やったー!」
ゼラチンは嬉しそうに笑いながら手を叩いた。その無邪気な笑顔を見て、まおは思わずため息をついた。
「ほんとに……調子がいいわね」
「えへへ、だって、まおちゃんが笑ってくれると嬉しいもん!」
「笑ってないわよ」
「笑ってるじゃーん! 顔に出てるよ!」
まおはついに顔を赤くしてしまう。ゼラチンはそれを見てにっこりと笑う。
「まおちゃんって、素直じゃないんだね。でも、だいじょうぶ! 私はまおちゃんのこと、もっと好きになっちゃうかも!」
「……何言ってるのよ、バカ」
「えー? でもまおちゃん、すっごくかっこいいんだもん!」
ゼラチンの言葉に、まおは何も言えなくなった。
(なんでこんなに恥ずかしいんだろ……)
二人はそのまま少し黙って、並んで公園のベンチに座り続けた。
その時間が、まおにはなんだか心地よかった。
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