清水
清水
清水から飛び降りる思いで、と意気込む若者があった。その若者は清水と書いてしみずという名の学生であった。しかし、一体清水は清水を求めていた。いつも、もしかすると彼が清水となる前から探していたのかもしれない。清水は捜し歩いた。正確には清水には、舞台 という言葉が付随されるが、どうやら清水である彼にとってはどうでもいいことらしかった。滝のように日々が過ぎた。まさに清水すらも飲み込まんとして。彼は清水を望む学生であった。もうすっかり土砂を含んでしまった彼であった。彼は清水を探していた。土砂 というのは、もしかすると、多分に、彼に向けられた憐憫の視線を含んでいたのかもしれない。
人は皆清水であった。かつて天から、彼らの練り歩くその俗世の貼るか上空から降り注いだ、幾千の清水であった。清水は皆、山に降り注いだ。海に降り注いだ。ほんの限られた粒たちは、悲しくも都会のコンクリートの上に落ちて砕け散った。そうして皆、清水に成ったのだ。清水の舞台から飛び降りた女がいた。彼女にとってそれは、街の喧騒をはるか下にみるビルの上でも、あるいは万物と、暴力とを湛える大海の底でも良いらしかった。それでも彼女は、清水から飛び降りた。その行方を、誰も知らない。
山に降り注いだ清水達は、大海に流れ出るころ、ただの土砂であった。その中に黄金を含む清水もいたが、もはや大海に流れ出ると、それは塵程の価値をも持たなかった。人は皆清水であった。清水を探し歩いた彼も、清水から飛び降りた彼女も、清水であった。ビルに降り注ぎ、山に降り注ぎ、そして大海に流れ出る。
彼らは気が遠くなるほどの年月の後に、ひっそりと天に上る。そうしてまた気が遠くなるほどの年月を過ぎて、また、清水は野に降り注ぐ。
清水から飛び降りる思いで、と意気込む若者がいた。その若者を清水といった。
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