とーと事件4章
第四章 黒の刺客 ― 食べ消し
──とーと事件、三日目。
街はもう形を失っていた。
焼け焦げた地面と、沈黙した電波。
それでも、わずかに生き残った人々は隠れながら、
それぞれの“応力”に怯えていた。
蓮たち三人は、郊外の廃研究所に身を潜めていた。
外では、空に無数の光が巡っている。
運営の監視ドローン──“観測眼”だ。
「ここで一旦、体勢を整える。
俺たちが生き延びるためにも、まず戦える場所を確保しないと」
蓮の言葉に、つみきは頷く。
kokoは崩れた壁の外を見つめ、静かに呟いた。
「……でも、運営が本気を出したら、どこに逃げても見つかるわ。」
「だからこそ、迎え撃つんだ。」
蓮の声が冷たく響いた瞬間──
空気が“止まった”。
時間が止まったような静寂。
次の瞬間、壁にいた影が“消えた”。
いや、違う。
**“食べられた”**のだ。
壁そのものが、影に触れた瞬間に“存在ごと”失われていた。
光も、音も、そこには届かない。
空間が喰われている。
「来たな……!」
蓮が立ち上がった瞬間、
闇の中から、ゆっくりと一人の男(いや、人影)が歩み出た。
黒いマント。顔はフードで隠れており、表情は見えない。
けれど、声だけは静かで、異様に透き通っていた。
「……対象、蓮。抹殺対象確認。」
「運営の刺客か。」
「コードネーム《食べ消し》。
存在を食い、記録から消す者。
君の存在は、時の法則に逆らっている。
ここで削除する。」
空気が歪む。
彼の周囲の景色が“欠けて”いく。
まるで、世界そのものを食べて消しているかのようだった。
蓮が前に出る。
「みんな下がれ。あいつは“接触”したものを喰う。
物理攻撃は効かない。」
つみきが息を呑む。
「……そんなの、どうやって勝つの?」
「奪うしかない。俺の《スキル奪還》で、能力ごと。」
kokoが眉を寄せる。
「でも、触れた瞬間に消されるのよ? それじゃ──」
「だからこそ、タイミングが命だ。」
その瞬間、食べ消しの声が響いた。
「予測完了。攻撃、開始。」
足元の床が消えた。
三人の立っていた場所が一瞬で“無”になる。
蓮は咄嗟につみきを抱き上げ、空間を蹴って跳躍する。
“消滅”の波が背後を飲み込んだ。
触れたものが、音もなく消えていく。
「《結界展開》!」
kokoが両手を突き出し、光の壁を広げる。
だが、結界の端が“喰われた”。
まるで、結界の存在そのものを削除されたように。
「……!? 効かない……!」
「物理じゃなく、“存在”を喰ってる。
結界の情報ごと、食べられてるんだ。」
蓮は歯を噛み締めた。
自分が未来で一度、彼と戦って“勝てなかった”ことを思い出す。
だが、今は違う。
未来を知っている自分なら、今度こそ勝てる。
「つみき、上を見ろ。天井を抜けて外へ!」
「でも、あんたは──!」
「行け!!」
蓮の叫びに、つみきは走った。
その瞬間、食べ消しが手を伸ばす。
空気ごと、彼女の存在を喰らおうとする。
「させるか──!」
蓮が突進し、あえてその手を掴んだ。
世界が歪む。
自分の腕が“消えかける”感覚。
痛みではなく、存在そのものが薄れていく。
だが──
「《スキル奪還》、発動。」
逆流する光。
奪う力が、喰う力を上書きした。
世界のバランスが揺れ、食べ消しの体が震える。
「……これは、何だ……? 僕の力が……奪われ……?」
「存在を喰う力、奪還完了。」
蓮が低く呟いた瞬間、世界が静止した。
“喰われた空間”が再構成され、音と色が戻る。
食べ消しは膝をつき、苦しげに声を漏らした。
「なぜ……僕を、殺さなかった?」
「お前の力は、奪えば済む。命までは奪わない。
俺は運営みたいに“消す”側になりたくねぇんだ。」
沈黙。
やがて、食べ消しのフードの奥から、わずかな声がした。
「……運営は、僕の記憶を喰った。
命令に従うしかなかったんだ。
僕が誰だったかも、もう覚えていない。」
kokoが近づき、静かに手を差し出す。
「……なら、一緒に来て。
ここにいれば、誰かを守ることができる。」
食べ消しは一瞬迷い、そしてその手を取った。
夜。
瓦礫の中、焚き火の前で四人は並んで座っていた。
kokoが穏やかに微笑む。
「これで、私たちは四人ね。
蓮、つみき、私、そして……食べ消し。」
「名前はどうする?」と蓮が問うと、
食べ消しは静かに呟いた。
「……“喰う”より、“護る”側にいたい。
なら……“消し”だけ残してくれ。
俺の名前は──消しだ。」
蓮は頷いた。
「ようこそ、消し。
これが、運営を倒すための最初のチームだ。」
焚き火が揺れ、赤い光が彼らの顔を照らす。
四人の影が、夜空の下で一つになった。
──hypocrite、再誕。
今回は食べ消しさんの登場です。自分登場させたかった人なんで許可もらえてよかったっす。ガチ感謝
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