とーと事件9章
第九章 異物の光 ― 仲間という理由
夜明け前の風が、耳を刺すように冷たかった。
砂煙が舞う荒野を、蓮はひとり歩いていた。
覚醒後の身体は軽く、痛みはもう残っていない。
だが、その感覚とは裏腹に、胸の奥が妙にざわついていた。
《警告:対象はシステム外の存在です》
《排除プロトコル起動準備》
耳の奥で、誰の声ともつかないアナウンスが鳴り響く。
蓮の身体を包む蒼い光が、微かに不協和音のように揺らいだ。
(……俺はもう、世界からはじかれる存在になったってことか)
それでも足を止めるわけにはいかなかった。
仲間たちを守る。それが唯一の道だ。
その時だった――背後から声が響いた。
「……蓮か?」
振り向くと、そこにはボロ布のように傷だらけの姿で立つ《つみき》がいた。
胸の奥が熱くなる。
「つみき……!」
駆け寄ろうとした瞬間――蓮は思わず足を止めた。
自分の身体から漏れる蒼い光が、つみきへ当たる。
光が触れた部分から世界の“データ”がざらつき、ノイズのように揺らいだ。
(……近づけば……消してしまう)
蓮が一歩引くと、つみきの表情が曇った。
「蓮……なんで離れるんだよ……?」
「……俺は、お前に触れちゃいけない。今の俺はシステムの外だ。
──存在自体が干渉になって、お前らを壊す可能性がある」
沈黙が落ちた。
風だけが二人の間を通り抜ける。
その瞬間、背後から声が飛んだ。
「お前らしくねぇな、蓮。」
影が走り、つみきを追い抜いて蓮の胸をドンッと叩く。
食べ消しだった。
「おい、消えやしねぇぞ。俺はまだここにいる。」
蓮は目を見開く。
「……でも俺の光に当たると……」
「当たってみたんだよ。
もしお前の力で俺が消えるなら──それでもいい。
だって俺の命、元々お前に救われたもんだろ?」
食べ消しの声は軽いが、その奥には重い覚悟があった。
そこに、ふわりと柔らかい声が重なる。
「……蓮、置いていかないで。」
振り返ると、泣きそうな表情の《koko》が立っていた。
未来視の能力のせいか、蓮の覚醒を薄々察していたのかもしれない。
彼女は蓮へ歩み寄り、蒼い光の前で立ち止まる。
「触れるのが怖いなら、私の方から触れるよ。」
その手が蓮の胸へ伸びた。
蓮は反射的に叫んだ。
「ダメだ!!俺は世界を壊す存在なんだ!!」
すると――
「俺が守るよ。」
背後から低い声。
《梅雨木》が結界を展開していた。
蓮の光が、結界で分散されていく。
「お前が壊すなら──俺らが支える。
それでチャラだろ。」
kokoの手が蓮の胸に触れた。
蒼い光は暴発せず、ただ静かに揺れた。
蓮は、ついに堪えきれなくなった。
「……俺は……みんなを守れなかったのに……!
未来では全員死んだんだぞ!!俺のせいで!!!
俺は仲間だったのに……守れるはずだったのに……!!」
叫び声は、悲鳴のようだった。
だが次の瞬間、つみきが蓮の腕を掴んだ。
「だったら今守ればいいだろ!!」
言葉が、胸に刺さった。
「俺たちは死なねぇ。
絶対に全員生き残る。
そのためにお前が未来から来たんだろ?
せっかく戻ってきたのに、離れてどうすんだよ。」
仲間たちが集まって囲む。
kokoが微笑む。
「未来なんて知らないよ。
でも私たちの“今”の隊長は、蓮だよ。」
梅雨木が笑う。
「死ぬ時は全員で死ぬ。
でも最後まで生き残るのも全員でだ。」
食べ消しが肩を叩く。
「ほら、泣くなよ未来人。」
蓮の膝が崩れ落ちた。
喉が詰まり、声にならない言葉が溢れた。
震える声で、ただ一言。
「……頼む……俺を……一人にしないでくれ……」
つみきが即答した。
「当たり前だろ。」
仲間たちは手を重ねて輪を作った。
その中心に、蓮がいた。
蒼い光はもう暴れていない。
まるで仲間に受け止められることを喜んでいるように――静かに優しく揺れていた。
その時──空が光った。
崩壊しかけた世界が、蓮たちの結束を“観測”したかのように。
《排除プロトコル一時停止》
《新変数:パーティ認証》
《第2ステージへ遷移》
世界の声が響く。
「……始まるぞ。」
梅雨木が呟く。
「次のステージだ。」
つみきが拳を握る。
「大丈夫。蓮がいるから。」
kokoが微笑む。
「運営だろうと悪魔だろうとぶっ倒す。」
食べ消しが牙を剥く。
蓮は静かに立ち上がり、深く息を吸った。
「行くぞ。
今度は絶対に──全員で生き残る。」
5人の影が夜明けの光へ駆けていく。
その姿は、もはや“敗北した未来”の残像ではなく、
“新しい未来を創る者たち”だった。
まぢで忘れてましたすいません。食べ消しさんもすいません。
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