雪よ降れ、大人しく。
雪が数え切れない程私の目の前を通り落ちていく。
白い息をそっと吐くたび、世界が少しだけ静かになる気がした。
「桜、寒くない?」
彼がそっと隣に寄る。声は優しいのに、どこか遠くを見ているみたい。
「ううん、大丈夫」
笑いながら答えるけれど、心の奥で何か嫌な予感がすると感じていた。
どうしても掴めない彼の気持ち。
その全部が、胸の中で重く折り重なり、息をするのも辛くなる。
しばらく無言で歩き、公園のベンチに腰を下ろす。
雪が木々の枝から舞い落ち、夜の静けさを白く包んでいく。
「桜、僕は、もう君とはいられない」
突然の言葉に、胸の奥が凍りつくように痛んだ。
「え…?なんで…?」
問いかける声は震え、涙が零れそうになる。
心臓が締め付けられ、息をするのも苦しくなる。
頭の中で何度も「どうして」と繰り返すけれど、答えはどこにもない。
彼は小さく息をつき、目をそらしたままポケットから紙袋を取り出す。
「…最後に、これだけでも」
中には手袋とマフラー。
「寒い冬の夜は、これを見て思い出して」
その温もりに触れるたび、何度も胸が痛む。
触れられる温もりと、離れていく彼の距離が同時に迫り、胸の中で引き裂かれるようだった。
「…でも、なんで」
問いかけても、彼は答えない。
雪だけが絶え間なく舞い落ち、ふたりの間の時間を覆っていく。
胸の奥で、痛みがぐるぐると渦巻き、涙がこぼれそうになるけれど、声に出せずに押し殺す。
彼は静かに立ち上がり、遠ざかる。
私はその背中を見つめながら、胸が張り裂けそうな痛みに震える。
手袋とマフラーの温もりだけが、ぽつんと残る。
――この冬の夜は、ずっと忘れられないだろう。
雪の白さに、答えのない問いと、触れられた温もり、そして胸の痛みが、静かに積もっていった。
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