Nの皆さんへ⑦

3 2026/03/30 19:49

ナカ村という、灰灯の拠点近くの村は、妙に生々しかった。

復興の途中。

壊れた家屋と、新しく組まれた木材が混ざり合っている。

ソラは、その光景をどこか他人事のように見ていた。

「……間に合わなかったな」

ぽつりと呟く。

今朝、機械人間に襲撃されたという情報があった。

ソラとラカールはとりあえずナカ村に向かった。

「当たり前だろ」

ラカールが肩をすくめる。

「情報が届く間に、村は壊滅する。これが現実さ」

「……機械人間か」

「そうだ」

短い会話。

フジ村で、どうにかNo.2を撃破した。その力と経験を持ってすれば、ナカ村を守ることは容易だったかもしれなかった。

そのときだった。

「おや、珍しい顔だな」

軽い声が割り込む。

ラカールの足が止まった。

「……お前か」

そこにいたのは、整った身なりの男だった。

笑っているが、目は笑っていない。

「久しぶりだな、ラカール」

「死んでなかったのか、サクノ・ハルマ」

「つれないねぇ。昔はよくつるんだ仲だろう?」

空気が一気に冷える。

ソラは黙って二人を見る。

「……何してる」

ラカールが低く問う。

「見て分からないか? 商売だよ」

ハルマは顎で後ろを示す。

移動式の店が立っていた。

そして檻の中に、人影。

ソラの視線が動く。

顎に黒髪がかかっている少女が、立っていた。

一歩、前に出る。

「人がかなり死んだ。復興するにも人が足りない。そこで、奴隷の出番になる。レンタルもできるぞ」

ハルマはそう言った。

親友だぞ。挨拶ぐらいしろ、とハルマに言われ、少女は一歩進んだ。

「ハズミ・アルトナイン」

「まだ名字を名乗るかねぇ」

ハルマは呆れた口調で言った。

「……なんで」

絞り出すような声。

「なんで、私は…」

男は一瞬も迷わない。

「冤罪だったから、か」

「冤罪?」

ラカールが興味深そうに言う。

「正確には、“冤罪と証明できなかった”から、だな」

淡々とした説明だった。

「証明できない無実は、有罪と同じだ」

ハズミの呼吸が止まる。

「そんなの……」

「ルールだ」

男は軽く言う。

「この世界のな」

沈黙。

重く、逃げ場のない沈黙。

ハズミは、まっすぐ顔を上げる。

その目には、さっきまでとは違う光があった。

「……私は、絶対に戻る」

ぽつりと。

だが、はっきりと。

「キョートシティに」

ラカールの眉が動く。

ハルマはわずかに笑った。

「ほう」

「アルトナイン家」

彼女は続ける。

「私の家」

ソラがハズミを見る。

初めて聞く言葉だった。

「全部、取り戻す」

その声は震えていない。

怒りでも悲しみでもなく、もっと硬い何かだった。

ハルマは肩をすくめる。

「できると思うか?」

「やる」

即答だった。

「私はアルトナイン家の人間だ。帰る権利がある」

風が吹く。

誰もすぐには言葉を返さない。

やがてラカールが口を開く。

「……キョートか」

思案するように。

「西方の中心都市だが、面倒な場所だぞ」

「関係ない」

ハズミは言い切る。

ソラは黙っていた。

だが、頭の中には別のことが浮かんでいる。

(中心都市……)

紅剣。鞘。制御。

(……あるかもしれない)

可能性は、ゼロじゃない。

「ラカール」

「ん?」

「キョートって、もしかして理式師多いのか」

「ああ。特にな」

少しだけ間を置く。

「紅燐祭も近いしな」

その言葉に、空気がわずかに動く。

だがソラはそれ以上聞かなかった。

まだ、決めていない。

決めたくないのかもしれない。

ハズミが前を向く。

「私は行く」

小さく言う。

誰に確認するでもなく。

ただの宣言。

ラカールはそれを見て、ため息をついた。

「……まぁ、我々には関係ないことだしな。ハルマはどうだ?奴隷も、キョートならこんな田舎より売れるかもしれないぞ」

だが、その声はどこか諦めている。

ハルマが笑う。

「どういう慈善事業だそりゃ。この子のわがままを聞けというのか?しかも遠いし」

「でも、ここじゃ奴隷を買える人間はいなそうだな」

崩壊した建物。涙を流す人々。

さまざまな意味で、無事な者はいなかった。

ソラは、ゆっくりと空を見上げた。

灰色の空。

どこへでも続いていそうで、どこにも行けなさそうな空。

(いいかソラ?動かなければ、何もできない。それがこの世界だ)

草原で、昔父が言った言葉だ。

ソラはそれを軽く思い出した。

父は、その後家を出て行った。音信不通となり、行方不明となった。今は生きているのかすらわからない。

でも彼は、動いたのだ。

それが正しかったのかは知らない。

だが、今。

ソラも状況は、確実に何かが動き始めていた。

いいねを贈ろう
いいね
3

このトピックは、名前 @IDを設定してる人のみコメントできます → 設定する(かんたんです)
画像・吹き出し

タグ: N 皆さん

トピックも作成してみてください!
トピックを投稿する
その他2026/03/30 19:49:28 [通報] [非表示] フォローする
TTツイートしよう!
TTツイートする

拡散用



まだコメントがありません。最初のコメントを書いてみませんか?
画像・吹き出し
タグ: N 皆さん

トピックも作成してみてください!
トピックを投稿する