龍神様
ナツの小さな手を握って、離さないようにする。
「顔つけるか?」
幼い頃の記憶が残っていても、ナツは海を嫌いにはならなかった。
「ぶくぶくぶくーって」
風呂で顔をつけて、泳ぎの練習。
「にいちゃんが持っててやるから、力抜いて…」
足で水面を蹴って、一生懸命泳ごうとする。
「そうそう、うまいうまい!」
泳げるようになれば二人で深い所まで潜って、胸が高鳴る。
「あっぷ、ぷはぁ」
「えらえらい」
あの時は必死で、妹を飲み込もうとする海を恐ろしく思った。
時に恵みとなり、時に牙を向く。
だが今は、海は穏やかに、俺たちを迎えている。
「凪潜れるの?」
「おう!」
砂に腰を下ろし、夕日を見つめる。
「綺麗だぞ〜」
「わあ」
七五三の挨拶をするのは、龍神様。
船を海難から守ってくれると伝えられる。
「お祭り?」
「龍神様に感謝して、漁で獲れた魚を捧げる」
大切な雨乞いの儀式でもある。
じいちゃんは祭りの前の神事を取り仕切っている。
神棚に手を合わせる。
「ありがとうございます」
「ナツのこともお守りくださってるんじゃぞ?」
ナツを助けたの俺じゃん、という反抗心が湧いた。
「守ってくれたの凪兄だもん!」
「これ、ナツ!」
怖い顔をされても、妹は引かなかった。
「ナツ、神様に怒られるぞ‥」
この島にとって龍神様は、それほどに大切なものなのだ。
「バチが当たるようなことを言ってはいかん!」
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