おまえが初めてその絵を描いた日のことを覚えているか。
ただの落書きのはずだった。退屈を紛らわせるために、軽い気持ちで線を引いただけ。
だがその瞬間、紙はもう「紙」ではなくなった。
白は虚無ではなく、死者の居場所を欲する口であり、
鉛筆の音は祈りではなく、召喚の呪文だった。
おまえは知らずに目を描いた。
それはすでにこちらを見返し、描き手の顔を映し取った。
おまえは知らずに口を描いた。
それはすでに言葉を覚え、夜ごとおまえの夢に囁いた。
「もっと描け」「最後まで完成させろ」「ここに命を与えろ」
気付けば、おまえは眠る時間さえ忘れ、絵の続きを描き続けていた。
だが、完成の瞬間こそが「終わり」であることを知るのは遅すぎた。
絵は静かに呼吸を始め、瞳を開いた。
おまえが眠る夜、その絵は微かに揺れる。
壁に掛けたはずなのに、机に伏せたはずなのに、
次に目を開ければ、絵はベッドの傍に立っている。
おまえは怯えながらも、朝になると「夢だった」と言い聞かせる。
だが夜は必ずやってくる。
その度に絵は近づき、囁きは濃くなり、指先は震えを覚える。
「おまえの体をくれ」「おまえの声をくれ」「おまえの記憶をくれ」
そしてある朝、おまえは鏡の前で違和感を覚える。
そこに映るのは確かにおまえの顔。
しかし目の奥に、誰かの影が揺れている。
それはあの絵だ。紙に閉じ込めたはずの存在が、今はおまえの瞳からこちらを見ている。
やがて、肉体は空っぽになる。
椅子に座ったまま、手は硬直し、目は虚ろに開かれたまま。
だが机の上の絵には、笑みが浮かんでいる。
おまえの笑みだ。おまえ自身のはずの笑顔が、紙の上に閉じ込められている。
――泣いても遅い。
描いたのはおまえ。命を与えたのもおまえ。
そして今、生きているのは絵であり、空っぽなのはおまえだ。
いや上手くね…
ずっと絵見てないから目が痩せてる

