推しが120人。
好きなおもちゃ。好きな食べ物。好きなキャラクターに好きな人。
この世にはそんな色々な"好き"が溢れている。
きっとそれを感じることが当たり前で。当たり前なのに幸せに感じられる。
それがいかに素晴らしいことか。
「感情が…うまく出せない?」
「はい。」
目の前には目を見開き驚くなーくん。まぁ、驚くのも無理はない。
だって彼には感情があるんだから。
僕。るぅとにはない感情があるんだから。
「えっ…と。それは…なんで?」
「多分父親に性的暴力を受けていたからです。」
「……え?」
別に言ってもいいし言わなくてもよかったこと。普通の人なら少しはためらうだろう。でも僕にはそんな感情もない。だからすんなり話した。
「えっ大丈夫なのっ?!」
「今は大丈夫です。」
父親が捕まったのは一昨年。本当に最近。なんで捕まったのかはわからない。行為が終わって気絶してしまっていた僕が目を覚ましたら既に病院にいた。
なぜかわからないけど父親が捕まった事実を知った時ポロポロと涙を流した。きっと嬉し涙というやつ。
「……なんで今言おうと思ったの…?」
そう不思議そうに言ってくる彼。確かに今の時期に言ってもあまり意味はないしなんなら隠し通すこともできる。
「感情が無いってやっぱり変なんだと思います。他の人とは絶対に違うと思います。だから言おうかなって。特に時期に意味はないです。ただ、なんとなく。それだけです。」
感情がないのに対して怖さはない。怖くない。感情がないって言ってるから当たり前か。なんてのんきに考えている。
「とりあ…えず…。活動……は。」
なーくんがそうおどおどしながら言う。
"活動"
そう。すとぷりというグループとして参加していた僕。一年はなんとか耐えた。2年目になると少し辛くなってきた。
心が。じゃなくて身体が。自分自身が辛いと感じなくても体が限界をこえると倒れてしまう。
感情がないからそれがわからない。警告がない。それがこの病気の怖いところ。
すとぷり自体は今年で2周年。少しずつ少しずついろんな人から応援されてここまでこれた。
だからこそこんなお荷物がいてはならないんだと思う。
確かにMIXはできるし作詞作曲だって少しずつできるようになってきた。でも感情が無い?そんなのただの冷酷人間。
いわばロボット。
「活動…はお荷物になってしまうので…だったi「ダメ。」
言いかけた言葉を止めたのは橙色の彼だった。元々今日は打ち合わせでその合間を見てなーくんのことを呼び出したから気になってついてきたのかな?多分。
そんなジェルくんは僕の近くくると僕の頭をポンと叩くと言った。
「俺たちは6人ですとぷりやろ?支え合おうぜ!」
「……はい。」
そう僕の返事を聞くと満足したようににっこりと笑うと部屋から出ていった。
「るぅとくんはお荷物なんかじゃないよ!俺、るぅとくんのこと大好きだもん!」
次に入ってきたのは赤髪の彼。なんだ。みんな聞いてて順番に入ってきてるのか。
「ありがとうございます。」
そして出て行った。
さぁ、次は誰だろう。
「だからるぅと、ずっと無表情だったのか。早く言えよ〜!!」
次は桃色の彼か。頭をまたもやわっしゃわっしゃされた。
「髪崩れました。5万ください。」
「さっきジェルもやってたじゃん!!」
歳のわりには若めの言葉使いで喋る彼は少し幼稚な場面もあるわけで。今みたいに少しムキになったりにね?
「るぅと。俺、まだ25。」
「いつのまに僕の心読んだんですか。世で言う気持ち悪いです。」
「ほう…口も達者になったなぁ…」
そうゲラゲラ笑う彼を横目になーくんが苦笑いする。
「じゃ、元気になったみたいだし俺戻るな!次はころんだ!」
出て行くさとみくんとはすれ違って入ってきたのは宣言していた通り青色の彼。
なぜかボロ泣き
「るぅっる"っぅ"るぅとくっう"っ」
涙を止めようとしているのも逆にどんどん涙が溢れていて意味がない。
「なーくん、あの人なんで泣いてるのかわかります?」
「いや、全く」
「僕もわ"か"ら"な"いいいいいいっっっっ」
「わかんないんかい」
そう大泣きされ抱きつかれた。
「るぅとくんがっ無事……よかだっよかだっっ」
いや、2年前なんでね?
「おい、ころん。そろそろ離れな。」
ゾロゾロと入ってくるメンバー達。全員話終わったから入ってきたのかな?そんな疑問を浮かべながらみんなの顔を見た。
「るぅとくん。」
そう僕の前に来て話したのはなーくんだった。
「さっきは戸惑っちゃったけどね。すとぷりはどんな時でもるぅとくんがいなきゃ成立しないんだ。それは他のメンバーもそう。
きっとるぅとくんは心の病気……なんだと思う。そんなに簡単じゃないことはわかってる。でも
俺たちがその心の傷を治したい。」
「なーくん…達が。」
「そやそや!ここに最強エンターテイナーがいるからな!笑わせたる!」
「俺っはそんなに面白いこととか言えないけど!るぅとくんの相棒なんだから!えぇっと…えっと!ホッとするような感情を取り戻せるように頑張る!」
「俺もるぅとを笑顔にするよ。」
「僕もっっるぅ……ぅぅっ"」
「ころん、せめて喋ろうか」
そうなーくんが優しく微笑んで僕に手を差し出した。他のメンバーも(泣いてる人は例外)優しく微笑んでお互いを見つめあっていた。
「よろしく……お願いします。」
僕はその細くて温かい手を掴んだ。
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「全力を尽くしましたが今夜がヤマだと思います.......。一回、目を覚ますこともあります。でも1日いや1時間もつかもたないか。」
死ぬ。
るぅとくんが死ぬ。
その事実だけが確かで残酷で。
もう世界が見えなくて。
真っ暗闇の中に放り出されたみたいで。
「ころん」
「なぁに。じぇーるくん。」
やけにふわふわしてる喋り方になって。
僕が壊れてることが自分でもわかった。
「るぅちゃんと喋ってきぃ?」
「へ?」
「俺たちはええからッ。いッってこい、、、、。」
他のメンバーもうなずく。
メンバーは最後まで僕たちが恋人だと思って。
「2人がッ......今ギクシャクしてることぐらい知っとるわッ。」
「.......へ?」
「当たり前やろッ何年の付き合いやと思ってんねんっ。なめんなよっ。」
ジェルくんが涙目で訴えてきた。
…あぁ。そっか。バレてたのか。
なに…やってたんだろう。
あの時、メンバーに素直に別れたって言っていれば。
るぅとくんについていけば。
本当に……大馬鹿だ。
「後悔してほしくないから言っとるんや。行ってこい。ころん。」
「そうだそうだ!!!」
本当はメンバーも話したいことくらい嫌でもわかる。
だって本当に最後が来ちゃったから。
こないと思ってた終わりが。
「........行ってくる。最後にッ。けり....つけてくる。」
カッコつけることすらできない情けない姿をメンバーに見られながら僕はゆっくりと病室へ入った。
「るぅとくん。」
横たわっている弱々しい彼。少し目を開けていて生きていることに泣きそうになった。
でも今....今泣いたらダメだろ。
伝えなきゃいけないこといっぱいあんじゃん。
「ころ…ちゃ?」
「そうだよ。ころんだよ。」
るぅとくんの弱々しい手をゆっくりと握った
「僕、馬鹿やっちゃったぁ…….......信号見てなかったぁ………」
そんなふうにいうるぅとくんはいつもとは違う雰囲気で。もう自分が死ぬことをわかっているかのように。
「一個しつ....もん。いい…?」
「なぁに?るぅとくん」
るぅとくんの手をさっきよりもギュッと握った。もう感じられないこの温もりを確かめてようとした。
「なん.....で振った.....の?」
「.......ごめんね。ごめんね。ごめんねるぅとく....ん.」
泣くな。まだ泣くな。弱いところを見せるな。
「…………こわくなっちゃっ……て。女の子と付き合うことに……な…て。」
どんだけ自分勝手なことを言ってるんだろう。
それでもるぅとくんはへへっと笑って。
「よかったぁ……。」
「………え?」
「ころちゃん、一人にならなくてすむねぇ……」
「……ふふwやかましいわ。」
そういうとるぅとくんも笑っていた。しばらく会話するとるぅとくんは辛そうに目をつぶりはじめた。
あぁ…………。終わりたくない。やだよ。終わりたくない。
「ころちゃんのさぁ……その声。がっさがさだけど。」
「なんだよ。」
「すっごい好き。」
"「ダサいww」"
「......へへw好きなの?なら一生ガサガサを持ち前にやっていきますわ。」
「えーwそれは....ちょっと。」
「なんでよ!」
今が。この幸せな今が。一生続けばいいのに。
今が今じゃなくなって過去になっていくのが怖い。過去なんて嫌い。
ずっと。ずっと。時間なんて過ぎなければいい。
「そうですか。..恋人かぁ…....。」
るぅとくんはどこか悲しそうに見えてしまったのは自惚れだろうか。あんな酷いことしたのにまだ好きでいてくれてるはずないのに。
「僕、死ぬんですよね。」
「……。」
「今ね、すっごい辛い。喋るのも辛い。
でもね。ころちゃんともう話せないなんて嫌だから。大好きなころちゃんともう少し一緒にいたかったな。
来世はころちゃんと奥さんとの子どもに産まれたいなぁ.....。なーんてね。」
自然とその一言で涙が止まらんくて。
なにも誰も責めない。そんなるぅとくんがずっとずっと遠くにいる気がして。
「こ…ろち……ゃ。」
息が荒くなってきて喋ることもできなかなってきていて。これはもう。
死ぬ合図じゃないか。
ぴーと無機質な音が響く。それが何を示しているか。そんなのはわかりきっていた。
「るぅとくんっるぅとくんっるぅっるっるうつ」
何度声をかけても返事はない。
あの元気な声が聞けない。
もう会えない。
後悔なんてする権利もない。
思いっきりドアが開いた音がしたがそんなのどうでもよかった。
「るぅっるぅとくんっるぅとくんっっ。」
「るぅちゃんっるぅちゃんっ。」
「るぅとっ」
「るぅとくんっ」
みんながるぅとくんの名前をよんで泣き叫ぶ。
相棒の莉犬くん。
なんだかんだで仲のよかったジェルくん。
ゲーム仲間だったさとみくん。
リーダーのなーくん。
みんな。みんな。みんな。
悲しいのは一緒なのに。
ぽと。
繋がれた僕とるぅとくんの手とは反対側の手から何かが落ちた音がした。
悲しくても頭は冷静で下をそっと覗き込んだ。
なんでこの手を離してしまったんだろう。
お互いがお互いを好き。それだけでよかったはずなのに。
世間なんてどうでもよかったのに。
毎日好きを伝えてれば。なにか違ったのかな。
伝えるのが下手すぎて。お互いが不器用すぎて。
好きがわからなくて。