終末世界的な

3 2021/01/22 19:07

「はあ…」

双葉が大きなため息を吐いてこちらをちらっと見た。

「はあ…」

ちらっ

「はーああ」

ちらっ

「どうかしたの」

私は本を閉じて双葉の方を向いた。

「やーっとこっち向いたね?…あっ本読み出さないでよ!」

双葉が私の手から本を取り上げた。

「ねえ、ちゃんと栞して…」

「『罪と罰』暗そー」

「ドストエフスキーだよ」

「えっドラえ…」

「ドしか合ってないし。もういい」

双葉の手から本を取り返して本を開いた。双葉がまた大きなため息を吐く。

「文字を視線でなぞってるよりもっと話そうよ。これだけ話さないと人の言葉話せなくなりそう」

「私がいる」

「正確には、彩だけ」

双葉がおもむろに外に視線を向ける。

倒壊した建物、鉄骨が剥き出しになったビル、動かない重機、銃痕。

「もう何もない」

「…それが、ため息の理由?」

双葉は答えずに立ち上がった。黒髪と制服のスカートが揺れる。

「行こう」

「うん」

私も本を閉じて立ち上がった。

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