ひ と り ご と
呼び寄せたのはぎりぎりの思い付きで、一人で来るのは初めてだった彼は予想通りに迷子になってて、鬼電に気づいて折り返したときは心細そうに「さとみくぅん」と鳴いた。
カンで動いて間違った家の番号を押すあたりの迂闊さとかがもうすでに面白くて、ようやくたどり着いた彼を玄関先で迎えた俺は「さとみくんイケメンが台無しな顔してる」と開口一番で失礼なことを言われる程度にはほおが緩んでいた。
そのあと十分も置かずに始まった放送は、彼の思い付きのメンヘラ女子の茶番から始まって、そこから急な歌枠。
ピアノもあるよ、といえば俺の好きな曲の伴奏をサクッと弾いて。
勝手に持ってきた俺のギターで「さとみくんに絶対合うなって思う曲があるの」なんて歌ったこともない曲を歌わされて。
まるでジェットコースターのようなその枠は、何をやっても面白くて、言うこと成すこと何ひとつ予想通りなことはなくて、しかも達成感まであった。
こんなに、全力で遊んだ子供みたいに「楽しかった」で終わる枠もそんなにない。
オンラインのほうが遊べるゲームの幅が広いからってそちらばかりを選んでいた過去を勿体なく思った。
時間制限で仕方なく枠を閉じた後は、家の機材についての話なんかで盛り上がった。
途中「コーヒーでも飲むか?」と自慢のエスプレッソマシンを紹介した時には、すごく申し訳なさそうに苦々しい顔で遠慮されたけど、子ども舌も彼らしいとむしろ微笑ましかった。コーヒーの味を批評するるぅとってちょっと嫌かもしれない。
翌日のことがあるから、と一時間ちょっとで帰っていった彼を引き留めたいと手を伸ばしかけた。
それからは余韻がすごくて無意識に「楽しかった」と何度もつぶやいた。
ずっと触っていなかったピアノをその日からは無性に触りたくなって、そして選んだのはあの日にるぅとから「合う」と勧められた曲。
それを極めたいと思って指を動かしながら、俺はちょっとした自覚をしていた。
同棲したいランキングで自分の次にお互いをランクインさせた俺たち。
キスが上手そうランキングでお互いを一位にした俺たち。
俺はるぅとに弟だとか兄だとか父だとか身内的な関わりは望んでいない。
どこか見知らぬ地に一緒に行くより、徹底的に彼個人とかかわりたい。
そうだ。
この曲を弾き語れるようになったら、るぅとを家に呼ぼう。
いつも予想外のことをして楽しそうに笑ってるあの子。
もしも曲の終わりに上手いと予想したキスをされたら、どんな顔をするだろうか。
それを楽しみに思いながら、俺は白黒がはっきりとした鍵盤と向き合った。

