ELGAMA #5 祭壇の少年
表紙にはなにも書いておらず、四角い枠がいたるところにあるだけだった。
「なんだこれ、辞典じゃないぞ?」
まったく使い方が分からない。
試しにそこに生えていた赤い実のついた花をむしった。
辞典で調べてみようと思い辞典に近づけると、レイスは驚きのあまり花と辞典を落とすところだった。
花が光り出したのだ。
花どころか辞典の枠まで光り出した。
次の瞬間、辞典の枠の中に文字が現れた。
[エベウプ]
《毒を和らげる効果と治癒力を持つ実がついている。実だけではなく、花にも少し治癒効果がある。花又は実をすりつぶし、出てきた汁を患部に落とせば効果が出る。ジェリス12デラに、学者フェリオスアン・イリエンセが発見。》
初めて見る辞典の効果に驚く。
こんなものがあったのか。
「怪我をした時に役立ちそうだな、何輪か持ってくか。」
レイスはその辺りに生えているエベウプをどんどん摘んでいった。
だが、生えているものの中で、少し気になるものがあった。
それはエベウプが、年をとった老人のようにしわくちゃになったものだ。
「これもエベウプかな。ちょっと熟してるのかも。」
そういって指に付いた汁を(柔らかいためすぐに潰れた)舐めた。
舐めた途端、レイスの体全体が焼けるように痛くなり始めた。
痛すぎて声も出なかった。
少し悶絶していたら、嘘のように痛みが消えた。
「これ…絶対…危…ない…でしょ…」
整わない呼吸を我慢しながら、同じような実を辞典に近づけ、調べた。
枠が新たに光り、文字が現れた。
[エベラント]
《エベウプと似ているが、こちらの実から取れる汁は2、3分間肌に付けたり、体内に取り入れたりすると、燃えるような痛みを起こすためエベウプと間違えてはいけない。ジェリス24デラに学者フェリオスアン・イリエンセが発見。》
「こんなの、間違えたら大変だよ。」
レイスは、ゆっくりと立ち上がると、気になっていた遠くの建造物へと向かった。
近づいてみると、その建造物は祭壇のようなものだと分かった。
だが、なぜこんな何もない草原が広がるところに置いてあるのか。
綺麗な石を使っており、光の当たり方によって光沢が見える部分もあった。
その瞬間、一瞬で空が曇った。
穏やかな太陽も、鮮やかな緑の草原も消え、そこには廃れた緑色の草に、灰色一色の空しかなかった。
そしてそれから間もなく、大きな雷がとどめき、祭壇に大きな音を立てて落ちた。
レイスはその衝撃に吹き飛ばされた。
ひっくり返ってしまったレイスは、痛みに顔を歪ませながら立ち上がった。
レイスは驚きのあまり目を見張った。
祭壇に、誰かがいた。
それも、レイスより少し年齢が上の少年だった。
6話↓