ELGAMA #18 ルミアナ編 #6 ミア
「こりゃあ、勝ち目がないぞ。」
エリントが言う。
二人はミアに手も足も出ず、防御に徹するほかなかった。
「こんなのが、2軍なの。」
ミアが静かに言った。
2軍の2とは、名乗れる名の数らしい。
数字が小さくなるほど位は低く、逆に大きいと強くなる。
「くっそ…」
エリントが小さく毒づく。
「ねぇ。」
レイスは、勇気を出して、呼んでみた。
「ミア、覚えてる?僕、レイス。」
彼女は黙ってレイスをじっと見据えた。
「懐かしいな、ほら、一緒に収穫祭に行ったよね。あれ、誰が優勝したんだったっけ。」
ミアは顔をしかめた。
何言ってんだコイツ、とでも言いたげだ。
________やっぱり、反応なしか…
こんなので洗脳が解けるのならば会った時にもう解けているだろう。
「おい、相手にはそんなお前の昔話に付き合うような情はないぞ。」
エリントが言う。
すると、ミアは目にも止まらぬ速さで光雑法を放った。
その狙いは、レイスだ。
目の前に風が迫る。
レイスは反応できず、風によって飛ばされた砂利がレイスの頬を小さく切り裂く。
レイスはすぐさま横に飛び退き、攻撃を避けた。
________ボーッとしてたらダメだな。どうにかしないと…
だが、エリント同様、敵であれど殺すことはできない。
________返せ…
レイスは心から怒った。
________ミアを、返せ。
《その調子だ。》
ヒュレルが言った。
《忘れてはないだろうが、殺すのではないぞ?》
レイスはニッと笑った。
________当たり前だ!
レイスは、いつの間にか持っていた剣を構えた。
「お前、そういやその渡した剣一回も使ってないな。ま、厳密に言えばフォーサーに渡したんだが。」
それで持っていたのか、とレイスは納得した。
ミアが剣を振り、今度はエリントに向けて光雑法を打つ。
「へっ!風ならもう予防済…」
だがミアが打ったのは炎の光雑法だ。
「なにっ!フェイントかっ!」
エリントも負けじと風の光雑法を打ち、打ち消しを試みる。
炎の大半が消えたが、残った炎はエリントに勢いよく向かう。
エリントはその炎を剣で受け止めた。
だが、炎が剣に触れた瞬間、剣がエリントの方に少し押されたかと思うと、エリントは体ごと吹き飛んだ。
すごい威力だ。
「ぐっ!」
天高く舞い上がったエリントは、道の脇に隠れて見えなくなった。
その瞬間、エリントの落ちた方向からドスンと鈍い音がした。
「エリント!」
さすがのエリントでも重傷だろう。
「ふふ、ばっかみたい。あなたもそう思うでしょ?自分で勝手に違う攻撃を予想して、外れて不意打ちを食らって、おまけにカッコつけて剣で防ごうとまでして、飛んでっちゃうんだから。」
ミアが笑いながら冷たく言い放った。
ミアの表情からは、昔の姿なんて想像できない。
あんなに笑っていたのに、明るかったのに。
今はもう、愛想笑いに似ているような、苦笑いのような笑顔しかすることができないのだ。
プレク村では年に一回収穫祭という祭りをやっていた。
村内で収穫に自信のある者が集まり、制限時間内に収穫できた量を競うものだ。
ラ•ビエンダ12デラ、レイスとミア、そしてそれぞれの両親と共に観戦しに行った。
優勝候補のトム•ホワイトは収穫前に歌うのだった。
「豊か〜な自然〜にか〜こ〜まれ〜、強く育〜ち作物よ〜。仲間と一緒〜に〜おいで〜よ〜。ぼ〜くら〜と一緒に踊ろ〜う♪」
声が太すぎるため上手くはないが、それでも皆、彼の歌が好きだった。
作物に優しく語りかける彼の歌を。
「……豊か〜な自然〜にか〜こ〜まれ〜…」
気付いたら、トムの歌がレイスの口から出てきた。
ミアがまた首を傾げた。
「考え込んでるんだと思ったら、何を言い出すの?」
レイスは構わず歌った。
「強く育〜ち作物よ〜。」
「下手くそな歌、う、歌わ、ないで、よ…」
レイスはミアの言うことに耳を傾けなかった。
「仲間と一緒〜に〜おいで〜よ〜。」
「やめてよ。」
ミアは耳を塞いで叫んだ。
「ぼ〜くら〜と一緒に踊ろ〜う。」
「やめ…て……」
レイスはミアの方を見た。
ミアは、耳を塞ぎ、その場に座り込んで静かに泣いていた。
「思い出すじゃない…」
音もなく、そして呆気なくミアの頬から涙が垂れ、地面に落ちた。
「あの日、真帝王が村を襲ったとき…お父さんも、お母さんもみんな居なくなって、フードを被った人が現れて…ここから覚えてないの。」
ミアは言った。
「そして、気付いたらこうやって、他人を傷付けて…」
ミアが手で顔を覆った。
「私って、最低の人間ね…」
レイスが立ち尽くしていると、背後から肩を叩かれた。
振り返ると、そこにはエリントが立っていた。
片足を引きずり、顔から少し血が出ていた。
「レイス、心配すんな、ちょっと足を挫いただけだ。まあもう一つの傷を強いて言うなら…」
エリントは一息吸って言った。
「顔の怪我、まあかすり傷だが、そのせいで俺のせっかくのハンサム顔が台無しになったぐらいかな。ハハ…」
そう言って笑ったエリントだが、辺りの空気を感じ取ると、黙った。
「こりゃどういうこった、お前勝ったか?(小声)」
「あぁ、まあ、うん。(小声)」
レイスは、ミアの近くに行き、屈んで言った。
「ねえ、ミア。」
「……?」
ミアは無言で顔を上げた。
すっかり元に戻っている。
「もし良かったら、一緒に来ない?僕たち、真帝王を倒すために旅をしてるんだ、まあ、まだ始まったばかりだけど。」
「いいの?もう少しでレイスを傷付けるところだったし、そこのナルシストのなんとかさんも傷付けちゃったし…その、自慢の顔を。」
「ナルシスト」と言われた瞬間、エリントの体がビクッと揺れた。
「いいよ、大歓迎。」
「俺はエリントだ。てか、俺、普段はナルシストじゃねえからな?」
エリントが訂正した。
18話↓
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〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
長めです。
ヒロインやっと登場。