ELGAMA #24 アリゴ編 #3 フェルグ
また長い沈黙が流れる。
エリントの行ってしまった方向を呆然と見続けるだけの時間が流れる。
「どうしよう、私のせいで…」
ミアは静かに涙を流した。
呆然とした顔のまま。
「大丈夫、分かんないけど、近いうち会いそうな予感がするし。」
________何を言ってるんだろう、でも、そんな気がしたんだ。『きっと戻って来る』って
心の中でそう呟いた。
エリントへの信頼がそれほど厚いということだろう。
「そんなわけないでしょ、あんなに言っといて。」
ミアが斜め下の地面をじっと見ながら言った。
「まあ、とりあえず先に進もう。こんなところにいたって何にも始まりやしない。」
歩き出そうとしたその時、レイスは木に立て掛けてある物に目が留まった。
「どうしたの。」
「あれ、なんだと思う。」
棒のような物で、先が曲がっている。
杖のようだ。
「誰のか分かる?」
「私に聞かれても、知らない。」
「そうだね…」
「……拾う?」
用途は知らないが、疲れた時に使えそうだ。
「え…別に拾いたいなら、拾ったらいいけど…絶対使わないよ?」
「ほら、疲れたときに、ね。」
「…?」
ミアは顔をしかめて首を捻った。
「レイス、腰悪いの?」
「いや、悪くないけど…」
急に哀れな人を見る目に変わったので、レイスは慌てて訂正した。
まだそんな歳ではない。
「あ、そだ、他人を剣で斬るのはあれだから、これで叩く、とか?」
「まあ剣よりかは傷付けなくて済むかもね。」
これには同意したようだ。
________話し合いに応じなかったら、エリントとこれで戦うか。
杖を拾い、二人は歩き出した。
しばらく歩いていると、少し森が開けた。
向かって左手には青い湖があり、右手には小屋があった。
「小屋?こんな所に?」
ミアが声をあげた。
少し機嫌が良くなったようだ。
「ここに来てまだフェルグしか他人は見てないけど…」
「まさか…」
そう言った途端、小屋の戸が開き、誰かが出てきた。
出てきたのはフェルグだ。
自然と足がすくむ。
逃げようにも足が動かない。
するとフェルグが口を開いた。
「なんだお前ら、まだいるのか。何しに来た。」
先程より、穏やかな口調だ。
「え?」
素っ頓狂な声が出るのも仕方がない。
つい先程戦った後だと言うのに嫌悪感のひとつも示さないのだから。
「おや、お前らが持ってるその棒はなんだ?」
「あ、これは木に立て掛かってあった物です。」
すると、フェルグはたちまち満面の笑みになり、言った。
「それは私の杖だ!だいぶ前から失くして困ってたんだよ…ありがとう、助かったよ。ところで、どうしてこれを拾ってきたんだい?」
レイスはまだフェルグの戦闘時とのギャップに対応しきれていない。
「その、敵が出てきた時に剣を使うのはちょっと、と思いまして…」
「ハハハ、ほんとに平和主義なんだね。」
すると、フェルグはガラリと顔を無表情に戻して言った。
「それで、エリントくん、だったかな、彼と仲間割れしたんだね?さっきそこを通って行ったよ。経緯も話してくれた。」
黙り込むレイス達に、フェルグは話を続けた。
「…勘違いしているのか分からないが、私はただの森番だ。自分で言うのもなんだが、心優しいぞ。さて、話を戻すが、彼は言っていたよ『仲間のバカみたいな平和主義さに嫌気が差した』とな、『アイツらは戦えない、俺は知ってる』とも言っていたな。それはもうボロクソにだ。」
レイスはショックのあまり話を聞いていなかった。
エリントが、まさか他の人にも言っていたなんて。
「僕、エリントと仲直りしたいんですけど、どうしたらいいでしょうか。」
エリントは、レイスにとって兄のような存在だ。
仲直りをできるものならしたい。
だが返ってきたのは厳しい一言だった。
「ふむ、それは、人に聞かずに自分で考えるべき、そう思わんか?人に貰った武器で勝利して、果たしてそれは自分自身の勝利と言えるのか?」
二人が黙り込むと、フェルグは立ち上がって言った。
「さて、君たちはもう行きなさい。エリントは、森の奥にいるだろう。」
そして小屋の外に追い出されたレイスたちは、森の奥を目指して歩いた。
「エリント、ちゃんと話をしてくれるかな…」
「あぁ、きっとしてくれるさ。彼はそこまで非道じゃない。」
「…そうだね。」
不安を募らせるミアを励ますつもりで言ったものの、実際のところレイスはエリントが話に応じてくれない気がしてならなかった。
すると、レイスたちの進む先に見えたのは、森の開けている場所だった。
「もうすぐ森を抜ける…」
レイスの独り言が、なぜか辺りに響き渡った。
そして、ついに森を抜けた。
次話、激突!!
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