【犬と狼 光と影】第一話
人とは、少し違っても、必ず同じような人生を歩む。教育を受け、成人し、仕事に就く。一般的な人々はそうだろう。
しかし、国会のニュースを見ているとつくづく思ってしまう。大人は、ごまかしている。
殆どの大人は上司などに叱られたときにその時はやり過ごす。そして、その後影で上司の悪口を言う。
言わないとしても、心のなかで思う。このように、心のモヤモヤは増えていく。
だからといって、自分がごまかしていないと言える自信はない。そもそも人間自体がそう。
それでも大人はごまかすなという。ごまかしがないと、誰だって生きてはいけない。
自分の心は、ずっと子供のままで、高校生になった。中学受験で失敗して、その後高校受験で頑張って、自分にとって満足できる学校に入れた。
そんなつらい経験をしていても、子供だった。小学校から中学校まで、目立とうとしなかった自分。そして、「友達」も少なかった自分。
そんな情けない時間を過ごしたことで、まだ、人との関わり方がわかっていないのかもしれない。
高校の入学式の次の日、自分はいつもより早く家を出た。春だというのに、かなり早めに太陽が出ていて眩しかった。
高校に早く走った。自分が本気で行きたかった学校に、早く行きたかった。
商店街の店はほぼ閉まっていた。人通りも少なく、走るのには好都合だった。
電車のプラットホームには、スーツを着た大人たちが立っており、はぁとため息を付いていた。
電車から降りて何度も乗り換えて、ようやくついたのが、籔床(やぶとこ)高等学校だった。
まだ門は閉まっている時刻のはずだった。だが、開いている。
興味本位で中に入った。周りを見渡したりしても、何もなかった。はぁ、と先程の大人たちと同じようなため息を出した。
門から出ると、そこには籔床高校の制服を着た、身長が同じくらいの少女が立っていた。
自分が小学生だった頃。席替えで一時期、ある意味素晴らしい席になったことがある。これは、確か最期の席替え。
席では、やはり冬以外では窓際が一番人気。3月になると、先生は、「これで最後の席替えです」といって席替えの紙を黒板に貼った。
そこは、とてつもなく絶妙な席だった。いいとも言えない。
ギリギリ、太陽の光が届かないところだった。窓際から2列目の一番後ろの席。
窓際の一列目は、授業にも積極的に、学級会では自ら司会を望むほどの奴らが集まっていた。窓から3列目は、反対側の窓から光が当たる。左の窓から2列目の一番うしろは、唯一照らされていないかなりレアな場所だった。まさにとても素晴らしい席だったと思う。自分だけ照らされておらず、他の奴は授業にしっかり参加している。
自分も、友達がいないわけではなかった。休み時間に一緒に過ごすやつもいたし、話すやつもいた。だけど、そいつらのことを一度も「友達」と思ったことはない。そんな自分でも、ただ一人だけ、俺と同じ状況の奴もいた。外間翠(ほかまみどり)という女の子だった。彼女は美女だったわりに、人付き合いが苦手らしかった。だが、外間は自分となら一緒に話してくれた。そして、その子の顔だけははっきりと覚えている。自分は、友達がいなくて良いのか聞くと、
「友達がいなくてもいいから。恋人さえいればいいから。」
なんて言っていた。自分が、友達がいなくていいのかと聞いたときのことだった。しかも、卒業式の後の下校中。それは、勝手に自分に対する告白だと心のなかで感じた。彼女はすぐにそっぽを向き、どこかへ走ってしまった。もしかしたら、この門を事前に開けておいたのかもしれない。