なんでも屋、始めました!

8 2024/06/01 16:21

―ジリリリリ

 5月の朝、うるさい目覚ましの音で目が覚めた。眠たい目を擦りながら、目覚まし時計を確認する。

「まだ6時じゃないか……」

俺はそう呟き、隣の布団を見た。そこには1人の男が心地よさそうに眠っていた。その男は白くて長い髪を後ろで束ね、黒くて可愛らしい角を尖らせていた。そんな彼の名前は風月紫庵(ふうづきしあん)という。俺は紫庵を起こさないように、そっと自分の布団を畳んだ。

 俺は寝室を出て、食堂へと向かう。するとダイニングテーブルには、金髪が目立つ京本弥生(きょうもとやよい)が優雅にコーヒーを飲んでいた。

「おっ!さっちゃん、今日は早起きだね〜!」

「弥生さんはいつも早起きですよね」

俺は弥生さんの隣に座る。俺の名前は花条咲久(かじょうさく)。みんなからは〝さっちゃん〟と呼ばれている。俺はこの家の主だ。この家は、昔親父が調子乗って買った別荘。使わなくなったから、今は俺が主としてシェアハウスをしている。この家には、俺含めて4人住んでいる。

 俺、紫庵、弥生さん。もう1人は五月雨ジョージ(さみだれじょーじ)。黒いうさぎ耳が特徴だ。

 俺は弥生さんとコーヒーを飲みながら、世間話をする。

「ねえ、さっちゃん。最近どう?紫庵くんと」

「どうって……。楽しいですけど、紫庵と仕事」

俺は先月、紫庵と一緒に仕事を始めた。その仕事とはいわゆる〝なんでも屋〟。きちっとした仕事が苦手な紫庵のために、俺が作った。

 客は1日に3人くらい。結構ハードな依頼も多く、案外疲れる。

「弥生さんはどうなんです?社長をやるとかなんとか……」

「ふふっ……。上手くいってるよ、色々と」

弥生さんは見た目とのギャップが凄い。金髪とピアスで一見チャラそうに見えるが、本当は凄く真面目で社長を務めるほど。

「ジョージくんはどうなんだろうね」

「さあ……。ジョージのとこは俺にもさっぱり……」

 ジョージには謎が多い。昼頃から家を出て、俺達が眠る深夜に帰ってくる。ジョージは何の仕事をしているかさえ分からない。

「なになに?ぼくの話?」

そう後ろから話しかけてきたのは、ニヤリと笑うジョージだった。

「おう。ジョージって何の仕事してるのかなーって」

ジョージは眉毛をピクリとさせる。

「それはねえ……、企業秘密だよ!」

「……そうかよ」

このように、ジョージは俺達に何も教えてくれないのだ。

「そういえばジョージ、また絆創膏増えた?」

ジョージはいつもどこかに絆創膏を貼っている。ジョージ曰く、よく転んで怪我をするらしい。

「そう……?あ、そんなことより紫庵起こさなくていいの?時間やばそうだけど」

俺は時計を見る。

「え……?やべっ……!」

―俺は急いで紫庵を起こす。

「おい!紫庵起きろ!!」

 紫庵はとろんとした目で俺に訴えかける。

「もっかい寝ちゃだめですか……?」

「だめ!!」

―俺達は、なんでも屋の準備を始める。

「さっちゃんさん、ネクタイ曲がってますよ」

「本当だ。ありがとな、紫庵」

なんでも屋には、制服がある。この制服は、弥生さんが手作りしたものだ。俺は白のシャツに黒ネクタイ。紫庵は黒のシャツに白ネクタイ。この制服には、夏用と冬用があり、いつでも着られるようになっている。

「あ、時間やばい……!」

気づけば、いつも家を出ている時間だった。

「さっちゃんさん、行きましょう!」

―――

「あのー……」

「ん、なんだ?」

俺達の職場、なんでも屋は広々としたログハウスだ。これも弥生さんの手作り。こんな立派な建物も、軽々作ってみせるのが弥生さんだった。

……そんなことは置いといて、今はこっち。

 結局俺達は遅刻してしまった。だが、朝イチからくる客も少なく、俺達2人でやってる店なので、少し遅れたくらいでは特に問題はなかった。そのため今は、紫庵とまったりしていた。その時、紫庵が俺に話し掛けてきたのだった。

「すみません……!遅刻しそうだったので、髪が結べていなくって……」

「お、おう……。今結べばいいんじゃないか……?」

紫庵が俺と目を逸らす。なにか言ってはいけないことを言ってしまったか……、と不安になる。すると、紫庵が予想外のことを言った。

「さっちゃんさん、私の髪を結ってくれませんか?」

「お、俺が?」

一紫庵の髪、綺麗だなあ。紫庵の髪をときながらそう思う。

「私、1回さっちゃんさんに髪を結って欲しいと思ってたんですよ!」

「な、なぜ……?」

「さっちゃんさんって、お洒落じゃないですか!」

その言葉に少し照れる。でも弥生さんとかの方が、髪を結うのは得意そうだけどな……。

「はい、できたよ」

俺は紫庵の髪を、高い位置で1つに結んだ。

「わあ……!ありがとうございます!これからはずっと、さっちゃんさんに髪を結ってもらいたいなあ……」

「言うほどか……?」

「はいっ!」

俺は紫庵の顔を見て、なんとなく笑顔になった。

―――

 客がやって来た。薄い桃色の髪を靡かせた女性は、一言俺達に言う。

「あの、ここはなんでも屋と聞いたんですが……」

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暮らし2024/06/01 16:21:58 [通報] [非表示] フォローする
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続きは書く予定ないけど、総選挙で10位以内に入ってたら続き書く。

多分入らんから気楽


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