ほろ苦さに酔う
自分がかわいくないなんていうのは、痛いほどわかっている。
白やピンクは好き。でもそのような可愛さを求めれば求めるほどに、自分が消えるような気がした。
可愛いものは、見たら心が癒されるはずなのに。
自分が身にまとうと色あせるのはどうして?
「可愛い」に囚われ、ただ自分を否定し続けるのは苦しい。
「今までの自分」なら、そうだった。
私は、どうやら「彼女」に会ってから全てが変わってしまったらしい。
「韓国系女子、ねえ。あたしは地雷系の方がカワイイと思うけどナー」
彼女は、冷たい目でスマホを眺め、スクロールする。
「そっ…そうかな?羅羽と私はいわゆる、その、地雷系に分類される人じゃん、?だから地雷に目が慣れてそう思ったりするだけ…なんじゃない?」
可愛いは人それぞれだって言うのもあるけど、それ以前に敵を作るようなことを言いたくない…
戸惑いながらそう言う私を、彼女は大きな目で見つめた。
「そうだよねー、地雷系かわいいから仕方ないか。韓国系に走るコたちは地雷の可愛さに目が慣れてなさそうだし」
「そうじゃなくてね…」
きょとんとして、彼女は「え?」と聞き返す。やっぱり、なんだか彼女は不思議だ。地雷系を可愛いと信じ、それを疑う様子がない。根っからの地雷系なのだろうか。見た目ばかり地雷の私とは違う。
私は今まで、白やピンクが可愛いと思ってきた。それが私の「可愛い」だった。
でも私は、私の思う「可愛い」が似合わないようだった。
白やピンクは純粋で潔白。やっぱり色のイメージ通りの人が着ないと違和感がすごい。
自分で自分を純粋、潔白と思っていないなら、着た時の違和感は大きいに決まっている。
それが自分の思う「可愛い」であっても、それを着て違和感さえ感じるなら、私はなにを好きになればいいのか。
心が空っぽのまま、街を歩く。たくさんの可愛い人とすれ違った。
Q.苦しい、私に何が足りなくて似合わないの?
A.??????????
意味のない自問自答を繰り返していると、ふと一人の女性が目に映った。そこから目が離せなくなった。
黒の厚底編み上げブーツ、黒のミニスカート、黒のブラウス…全身真っ黒だ。自分は黒が特別好きというわけではない。むしろ真逆の色が好きなはず。なのにどうして。
私は無意識のうちに走り出し、彼女に声をかけた。それが、初めての会話。
まさかの同い年というのもあり、そこから打ち解けるのは早かった。連絡先を交換して、たくさん話をして、そして私は彼女におすすめされて地雷を着ることにしたのだ。
学校のことも話すようになって、彼女は私に、地雷系になったきっかけを話してくれた。
それで、彼女が私には耐えがたい人生を送っていたことが分かった。
小学生のころは、学校へ行くといじめを、家に帰ると父方の家族からの虐待をうけていた。そのせいで価値観は酷く歪み、中学ではそれが否定されたそうだ。
「小学生のあたしは虐待といじめ両方ともよく耐えたなーって思うよ、他人事感えぐいけど。でも今のあたしがいじめっ子だとしたら、確実に昔のあたしを虐める。嫌いだからね、同族嫌悪ってやつだと思う」
という彼女に、なんて言葉を返せばいいか分かならなった。
「本当につらい時もあったけど、病みアピはやっぱきついよね。あたしもされたらやだ。でもずっと辛くて、それをどこかで吐き出したかったわけだよ。大体の人はそこらへんで病みアピに走るんだけど、あたしはやっぱ言葉じゃない方法で苦しさを吐き出すには『見た目』しかないと思ってね。それこそ一歩間違えたら病みアピだよ?絆創膏腕に貼りまくったり、そういうのは。あたしらしく苦しんだ結果が可愛いに化けたらいいのになって思ってたら、いつの間にかこうなってた」
と話す。彼女はどんな時でも「自分らしい」を追求していた。「わたしもそうすればよかったのか」なんて、そんなのがよぎったけどもうどうでもいい。
だって、すでに私は彼女の虜なのだ。
今までの辛い過去も、晴れなかった気持ちも、くだらない感情も。
甘い甘い黒に落ちて、そのほろ苦さに酔う。
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