小説 最高の舞台で
そうだ、これはまるで恋に似た気持ちだと思った。
ステージ袖から聞く演奏は素晴らしく、僕は聞き惚れてしまっていた。
ステージはとても明るく、光を反射した楽器たちがきらっと輝く。
一方袖の方は暗いので、僕は漏れ出る光と麗しい音を盗むだけだった。
指揮をみて、息を合わせ、その一瞬、楽器に命を吹き込む。
美しい構えも、ぴったりと合う息も、体で表現する音も。
その姿を、僕はずっと傍で何回も見てきた。
一年が過ぎ、ステージに立つ側の気持ちがよく分かった。
僕が一年前に見たのはプレッシャー?緊張?焦り?不安? 全部違う。
でも僕は今、緊張している。
体がこわばる。息が浅くなる。全力が発揮できない。
今までの練習が水の泡になってしまうのではないか?
でもそんなことしたくない。
苦しい息に、動かない体に、追い詰められていくだけだった。
聞き手がのめりこめるほど良い演奏は、そうできないものだ。
プロとかでなければなおさら。
でも僕は、聞いた人が明日少しでも楽になるように。
少しでもいい気分でいられるように。
より長く、音楽の魅力に浸っていただけるように。
苦しいことが忘れられるように。勇気を出せるように。夢を見れるように。見続けられるように。
僕は、よりよい影響を与えることを望んでいる。
いい演奏じゃなくていい。ただ、あたたかい気持ちと命を、
この音に乗せる。
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