小説 最高の舞台で

2 2024/06/28 18:35

そうだ、これはまるで恋に似た気持ちだと思った。

 

ステージ袖から聞く演奏は素晴らしく、僕は聞き惚れてしまっていた。

ステージはとても明るく、光を反射した楽器たちがきらっと輝く。

一方袖の方は暗いので、僕は漏れ出る光と麗しい音を盗むだけだった。

指揮をみて、息を合わせ、その一瞬、楽器に命を吹き込む。

美しい構えも、ぴったりと合う息も、体で表現する音も。

その姿を、僕はずっと傍で何回も見てきた。

 

 

一年が過ぎ、ステージに立つ側の気持ちがよく分かった。

僕が一年前に見たのはプレッシャー?緊張?焦り?不安? 全部違う。

でも僕は今、緊張している。

体がこわばる。息が浅くなる。全力が発揮できない。

今までの練習が水の泡になってしまうのではないか?

でもそんなことしたくない。

苦しい息に、動かない体に、追い詰められていくだけだった。

 

聞き手がのめりこめるほど良い演奏は、そうできないものだ。

プロとかでなければなおさら。

でも僕は、聞いた人が明日少しでも楽になるように。

少しでもいい気分でいられるように。

より長く、音楽の魅力に浸っていただけるように。

苦しいことが忘れられるように。勇気を出せるように。夢を見れるように。見続けられるように。

僕は、よりよい影響を与えることを望んでいる。

いい演奏じゃなくていい。ただ、あたたかい気持ちと命を、

この音に乗せる。

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タグ: 小説最高 舞台

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