霧の中の記憶
薄明かりの中、霧が立ち込める森の奥深く、古びた石造りの教会がひっそりと佇んでいた。
苔むした壁には、時の流れを感じさせるひび割れが走り、周囲の木々はその存在を隠すかのように枝を大きく広げている。
教会の鐘は長い間鳴らされることなく、静寂の中に埋もれていた。
その教会に足を踏み入れた少女———愛美は幼少期をこの村で過ごし、数年前に家族を失った。
心の奥に残る痛みと苦しみを抱えながら、愛美は再びこの場所を訪れる。
霧の中、愛美の心は過去の記憶に引き戻されていくのだった。
教会の中は薄暗く、光が差し込むことはほとんど無い。
愛美は、かつて家族と共に座った木製のベンチに腰を下ろした。
そこには愛美の笑い声が響いていた日々がある。
母の優しい声、父の力強い声、そして兄の無邪気な遊び声———。
全てが、今は霧のように消え去ってしまったのだ。
愛美は目を閉じ、心の中で彼らの声を呼び起こす。
すると、ふと、教会の奥から微かな音が聞こえてきた。
愛美は驚いて目を開け、音のする方へと足を進めた。
そこには、古い祭壇があり、微かに光を放つキャンドルが置かれている。
キャンドルの炎が揺れる中、愛美は1枚の古びた絵を見つけた。
それは、愛美の家族が描かれた肖像画だった。
愛美がその絵を手に取るのと同時に、温かい涙が頬を伝う。
絵の中の家族は、まるで愛美を見守っているかのように微笑んでいた。
「ごめんなさい、私がもっと早く帰ってこれば……」
愛美は思いきり声を震わせて呟く。
愛美の心の中には、後悔と喪失感が渦巻いていた。
しかし、その瞬間愛美は気づく。
家族たちは決して愛美のことを忘れない。
そして愛美もまた、家族たちを忘れてはいけないのだと。
霧が少しずつ晴れ、教会の外に出ると愛美は新たな決意を胸に抱いた。
愛美は過去を背負いながらも、未来へと歩み出すことを選ぶ。
教会の鐘が、静かに愛美の背中を押すかのように響いた。
「ありがとう、また来るから……!」
愛美は暖かく微笑み、教会を後にした。
霧の中に消えていく愛美の姿は、まるで新たな旅たちを象徴するかのようだった。
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