霧の中の記憶

3 2025/02/21 14:26

薄明かりの中、霧が立ち込める森の奥深く、古びた石造りの教会がひっそりと佇んでいた。

苔むした壁には、時の流れを感じさせるひび割れが走り、周囲の木々はその存在を隠すかのように枝を大きく広げている。

教会の鐘は長い間鳴らされることなく、静寂の中に埋もれていた。

その教会に足を踏み入れた少女———愛美は幼少期をこの村で過ごし、数年前に家族を失った。

心の奥に残る痛みと苦しみを抱えながら、愛美は再びこの場所を訪れる。

霧の中、愛美の心は過去の記憶に引き戻されていくのだった。

教会の中は薄暗く、光が差し込むことはほとんど無い。

愛美は、かつて家族と共に座った木製のベンチに腰を下ろした。

そこには愛美の笑い声が響いていた日々がある。

母の優しい声、父の力強い声、そして兄の無邪気な遊び声———。

全てが、今は霧のように消え去ってしまったのだ。

愛美は目を閉じ、心の中で彼らの声を呼び起こす。

すると、ふと、教会の奥から微かな音が聞こえてきた。

愛美は驚いて目を開け、音のする方へと足を進めた。

そこには、古い祭壇があり、微かに光を放つキャンドルが置かれている。

キャンドルの炎が揺れる中、愛美は1枚の古びた絵を見つけた。

それは、愛美の家族が描かれた肖像画だった。

愛美がその絵を手に取るのと同時に、温かい涙が頬を伝う。

絵の中の家族は、まるで愛美を見守っているかのように微笑んでいた。

「ごめんなさい、私がもっと早く帰ってこれば……」

愛美は思いきり声を震わせて呟く。

愛美の心の中には、後悔と喪失感が渦巻いていた。

しかし、その瞬間愛美は気づく。

家族たちは決して愛美のことを忘れない。

そして愛美もまた、家族たちを忘れてはいけないのだと。

霧が少しずつ晴れ、教会の外に出ると愛美は新たな決意を胸に抱いた。

愛美は過去を背負いながらも、未来へと歩み出すことを選ぶ。

教会の鐘が、静かに愛美の背中を押すかのように響いた。

「ありがとう、また来るから……!」

愛美は暖かく微笑み、教会を後にした。

霧の中に消えていく愛美の姿は、まるで新たな旅たちを象徴するかのようだった。

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