【春総選挙】「続編:また、春が来たから」
登場人物:悠人・紬・千紘・(咲)
【あらすじ】
あれから4年。大学生になった悠人は、春が来るたびに、紬の手紙を読み返していた。
季節は変わっても、彼の中にはずっと「あの春」が生きている。
でもある日、文芸サークルの後輩が言った。
「この詩、すっごく紬さんに似てますよね」
差し出されたのは、地方の文芸誌に載っていた、一本の詩。
そのタイトルは――「春をくれた人へ」。
第1章 ──置いてけぼりの春
4月。大学のキャンパスには、入学式を終えたばかりの新入生たちが溢れていた。
「悠人先輩〜! 会報誌、印刷いってきましたよ!」
後輩の千紘が、両手にプリントを抱えてやってくる。
「ありがと。今月号もいい感じ?」
「はい、でも……実は気になる記事があって」
そう言って千紘が1ページを指差した。
そこには、こう書いてあった。
春をくれた人へ
あなたがいなくなってから、春は優しすぎる。
花びらの舞う道を歩くとき、私はいまも、あなたの背中を探してしまう。
でも、心の中にはちゃんと、あの日の笑顔が生きてる。
あなたの言葉が、今日も私を生かしてる。
だから、春が来るのは怖くない。
あなたが春をくれたから。
――ありがとう。忘れないよ。
「……これ、誰が書いたんだ?」
「ペンネームは“咲”。でも、なんか、紬さんの書き方に似てませんか?」
心臓が、ドクンと鳴った。
咲。
どこかで聞いたことがあるような、ないような。
そして、ページの下には小さく、
「※寄稿者は現在、地元で療養中。投稿作品より抜粋」
とあった。
まさか、そんなはずは。
でも――
心のどこかで、火が灯る音がした。
第2章 ──咲という名前
数日後。悠人は、地方文芸誌の編集部に連絡を取っていた。
名前も顔も出さず、ただ「咲さんに伝えたい言葉がある」とだけ言った。
そしたら数日後、1通の封書が届いた。
差出人の名前はなかった。けど、中に入っていた便箋の文字は、たしかに見覚えのある筆跡だった。
悠人くんへ
この手紙をあなたが読んでいる頃、私はきっと、また春の空の下にいます。
あの春から、私はずっとあなたに伝えたい言葉を抱えて生きてきました。
「ありがとう」も「ごめんね」も、何度も心の中で言いました。
でも、やっぱり一番伝えたいのは――
「生きててくれて、ありがとう」
あなたがいた春は、今でも、私の光です。
またどこかで、桜の下で会えたら、その時は笑って声をかけてね。
紬より
最終章 ──春の続きを生きる
それから悠人は、“咲”という名前で、紬との日々を小説に綴りはじめた。
フィクションとして、でも本当の気持ちとして。
“春をくれた彼女”の記憶は、多くの読者に届きはじめていた。
サークルの後輩たちは言う。
「この小説、本当に誰かにあった話みたいですね」
悠人は、静かに笑った。
「うん。……春になると、いつも隣にいた人がいるんだ」
そして、今年もまた、桜が咲く。
彼は手紙を胸ポケットにしまって、あの丘へと向かった。
風が吹いた。
花びらが舞う中、どこかから声が聞こえた気がした。
「――春を、ありがとう」
終わりに(続編)
生きるって、想いを受け継ぐことなんだと思う。
誰かのくれた季節を、忘れずに、今日を生きていく。
だから、春が怖くなくなった。
今は、会えない誰かに「またね」って言える気がするんだ。