夏の初め
海辺からの帰り道にて、私は空を見上げていた。水平線から太陽まで続く青と水色のグラデーションが私を包み込んでくれる。サンダルについている砂を落としながら、自販機で買ったジュースを飲んでいた。
「夏休みも来れるといいね」
友が私に話しかける。
「そうだね。また俺達だけだと面白くないし、他の人も誘えよ」
私は彼の好きな人を知っている。ちょっといじってみたくなった。
「例えば…誰だよ」
「りな、とかさ」
「お前なあ…知ってて言ってるだろ」
「うん」
私の口角が上がる。もっといじってやろう。
「最近、どうなんだよ」
「何がだよ」
「りなとだよ!」
「うーん…」
彼は視線を落とした。そんなに考えることがあるのか。私は彼の返答を待ちながら、ジュースを飲んでいた。空になる頃、彼はやっと口を開いた。
「なんかさ、色々とあんまりなんだよね」
「え?」
予想していた解答とはあまりにも違かった。どういうことなんだ。なにがあんまりなんだ。好きじゃないのか?
私の脳が何を質問しようか迷っていると、彼は続けた。
「勿論、りなの事は好きなんだけど、なんか最近、熱が無くなってきたように感じてさ。」
「あれだけ好きだったのに、変わったな、お前。」
「今までは好きっていうよりかは依存していたんだよ、りなに。」
確かに、言われてみればそうである。彼は彼女という存在に頼っていた。彼女がいるから彼がいるのであって、一時期は親友の私とも遊ばず、彼女と遊んでいた。
「で、俺はいまその依存から脱出したわけ。」
「ふーん…」
お互い、何も話さない時間が続いた。せっかくおもしろそうな話をしようと思ったのに、まさか話の初めから私の予想と違っていたなんて。
「なあ…それってさ…いい事なんだよな?」
「俺はそう思うよ。依存はあんまり良くない関係だしな」
「でもさ、お前は今の状態で満足してるのか?前のお前と、心が満たされてるのはどっちなんだよ」
「それは…」
「しかも、なんか最近のお前、やる気とか、そういうの無いよな」
交差点まで来た。私と彼は帰り道が違うため、ここで彼とは別れることになる
「俺は、お前に情熱そのものを失ってほしくない。よく考えて欲しいんだ。」
私はそれを言い残して、点滅している信号を渡りきった。後ろを振り返ると、彼はぎこちない笑顔で手を振っていた。
一人で帰る道は、少し寒く感じた。まだ太陽は私達を照らし続けていた。
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