【夏の思い出総選挙】小説・君を待つ夏
君を待つ夏― 海辺の記憶 ―
蝉の声が絶え間なく響く八月の午後。
中学二年の遥斗(はると)は、いつも通り海沿いの防波堤に座っていた。潮風は熱気を少しだけ和らげ、目の前にはきらめく水平線が広がっている。
隣に座るのは、幼なじみの美咲(みさき)。小さい頃からずっと一緒に過ごしてきた相手で、夏になると毎日のようにここで語り合っていた。
「ねえ、遥斗。来年も、再来年も、ずっと一緒にここに来ようね」
「当たり前だろ。俺らは最強コンビだし」
笑い合いながら、二人は小指を絡めた。
しかし、その夏は特別なものになった。
美咲の家族が父親の転勤で遠くへ引っ越すことになったのだ。
――――
夏祭りの夜。提灯の光、浴衣姿の人々、屋台の匂い――
遥斗と美咲は最後の思い出を作るかのように、手をつないで人混みを歩いた。
花火が夜空に咲いた瞬間、美咲は涙をこらえながら言った。
「私、忘れないよ。どんなに遠くに行っても、この夏のことも、遥斗のことも」
遥斗は胸が締めつけられるような痛みを感じながらも、強がって笑った。
「バカ。忘れるわけねえだろ。俺だって、毎年ここで花火見ながら美咲のこと思い出すから」
二人は最後にもう一度、約束を交わした。
――――
それから数年後。
高校に進学しても、大学に進んでも、遥斗は毎年夏になると海辺に立った。
あの日と同じ蝉の声、潮の香り、遠くで響く花火の音。
でも隣にはもう、美咲はいない。
「……会いたいな」
そうつぶやいた夏のある日、一通の手紙が届いた。
差出人は美咲。
――『約束、覚えてる? 今年の夏、帰るから。あの防波堤で待っててね』
遥斗の手が震えた。心臓が暴れるように高鳴った。
――――
夕暮れの海辺。潮風が吹く中、防波堤に立っていると――
人影がこちらに駆けてくる。
長い髪をなびかせながら笑う少女。
遥斗の記憶の中のまま、いや、それ以上に美しくなった美咲がそこにいた。
「遥斗!」
「美咲!」
二人は何も言わず、ただ強く抱きしめ合った。
夕陽に照らされるその姿は、まるで夏が二人にくれた奇跡のようだった。
遥斗の目から涙が溢れた。
「……約束、守ってくれてありがとな」
美咲も涙を流しながら笑った。
「うん。だって、ずっと楽しみにしてたんだもん」
波の音が優しく響き、蝉の声が遠くで鳴いていた。
二人の新しい夏が、ここから始まった。
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