とーと事件5章
第五章 オメガタワー侵入戦
夜の街に、異様な塔が聳えていた。
雲の中に届くほどの黒い建造物。
それが──オメガタワー。
運営が最後に残した実験都市の中枢であり、
「応力」発生の根源とされる場所だった。
「ここが……オメガタワー。」
つみきが見上げ、思わず息を呑む。
壁一面に監視ドローン。
空気中には“反応探知フィールド”が張り巡らされ、
動くだけで認識されるほど厳重な警戒。
「今回はお前たち二人で入ってもらう。」
蓮が静かに言った。
「え? なんで私たちだけ?」
つみきが驚くと、蓮は真剣な目で言葉を続けた。
「お前たちの実力を見たい。
この先、運営本部に踏み込むには、
単独でも動ける力が必要になる。」
隣で、消しが小さく頷いた。
「俺と蓮は外で待機する。
異常があれば介入するが、基本は見守りだ。」
kokoは短く「了解」と返し、
髪を束ねて結界展開の準備を始めた。
光が淡く灯る。
二人が塔の内部へと入っていく。
階層ごとに違う構造。
1階は無人の警備ドローン、
2階は応力を吸収する液体状フィールド。
kokoは瞬時に結界を展開して進路を確保し、
つみきは指先をかざして
自らの“重力変動”の応力を操る。
「行ける……私たちでも!」
つみきの瞳に自信が灯る。
一方、塔の外。
蓮と消しは遠くの丘から監視をしていた。
「……二人とも、かなり仕上がってるな。」
蓮が呟くと、消しは無言で頷いた。
だがその瞬間──
塔の反対側で、強烈な応力反応が走る。
地面が揺れ、空気が裂ける。
光の中から、ひとりの青年が姿を現した。
白いコート、腰に剣。
そして、その目は鋭く運営の塔を睨んでいた。
「ここが……運営の巣か。」
低く呟いたその声。
彼の名は──梅雨木(つゆき)。
「蓮、どうする?」
「……動くな。様子を見ろ。」
梅雨木は塔へ一直線に突っ込んでいく。
その先には──kokoとつみき。
塔の内部。
警戒態勢が一瞬で崩れ、衝撃波が吹き抜ける。
扉が弾け飛び、梅雨木が姿を現した。
「運営の兵か……!」
剣を構えると同時に、
空気中の水分が彼の周囲に集まり、
鋭い氷の刃となって飛んだ。
kokoが即座に反応する。
「《結界展開・五重防壁》!」
氷刃が結界を叩き割る。
五重のうち三重が一瞬で砕け散った。
「なっ……!? 何この威力!」
つみきが叫び、床を蹴って距離を取る。
梅雨木の目は怒りで濁っていた。
「俺は運営を潰すために来た!
……なのに、貴様ら、運営の紋章を背負っているとはな!」
kokoが驚く。
確かに、潜入用の偽装スーツには
運営の識別コードが刻まれている。
誤解だった。
「違う! 私たちは──」
「言い訳するな!!」
剣が振り抜かれ、光の斬撃が走る。
つみきが即座に重力場を展開し、軌道をずらす。
「……強い。完全に私たちより上だ。」
「でも止まれない、やるしかない!」
二人の連携が始まる。
つみきの重力波で相手の足を縛り、
kokoの結界で爆圧を跳ね返す。
だが──梅雨木の動きは速すぎた。
結界の隙を突いて、刃がつみきの頬を掠める。
血の一滴。
その瞬間、空気が凍り付いた。
「やめろ。」
重なるように響いた低い声。
梅雨木の動きが止まる。
視線を向けると、そこにいたのは──食べ消し。
黒のマントを翻し、
彼は静かに二人の間に立っていた。
「……食べ消し?」
kokoが呟く。
梅雨木は警戒を強めた。
「運営の処刑人が……なぜここに。」
食べ消しはゆっくりとフードを外した。
その目には、以前の冷たさはなく、
静かな決意だけが宿っていた。
「俺はもう、運営の犬じゃない。
……あんたの気持ちは分かる。
俺も、奪われた側だ。」
「奪われた……?」
食べ消しは胸元を押さえた。
「記憶を喰われ、感情を削られ、命令だけで生かされた。
運営がそうやって作った“人形”が俺だった。」
沈黙。
梅雨木の剣先が震える。
「……じゃあ、あんたも……運営に奪われたのか。」
「ああ。だからこそ、今はあいつらを倒す側にいる。」
食べ消しが一歩前へ出て、手を差し出す。
「俺たちは同じだ。敵じゃない。
共に戦えるはずだ、梅雨木。」
その名を呼ばれた瞬間、
梅雨木の目が見開かれた。
「……俺の名前、どうして──」
蓮が背後から歩み出てきた。
「未来で会ったんだよ。」
その一言に、すべてが静まった。
長い沈黙の後、梅雨木は剣を下ろした。
冷たい目が、少しだけ和らぐ。
「……悪かった。
見た目が運営の兵と同じだったから……」
「気にすんな。誤解はもう解けた。」
蓮は微笑み、手を差し出した。
梅雨木はためらいながらも、その手を取った。
塔の外に朝日が昇る。
四人のシルエットが光に照らされる。
蓮が呟く。
「これで五人目か。
──チーム《Hypocrite》、ようこそ。」
梅雨木は小さく笑った。
「……俺が裏切ったら、食べて消せよ、食べ消し。」
「その時は、一緒に消えてやるよ。」
互いに笑い、拳を合わせた。
空の上で、オメガタワーが沈黙した。
運営の核心へと、彼らはまた一歩近づく。
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