とーと事件5章

8 2025/11/03 18:47

第五章 オメガタワー侵入戦

 夜の街に、異様な塔が聳えていた。

 雲の中に届くほどの黒い建造物。

 それが──オメガタワー。

 運営が最後に残した実験都市の中枢であり、

 「応力」発生の根源とされる場所だった。

「ここが……オメガタワー。」

 つみきが見上げ、思わず息を呑む。

 壁一面に監視ドローン。

 空気中には“反応探知フィールド”が張り巡らされ、

 動くだけで認識されるほど厳重な警戒。

「今回はお前たち二人で入ってもらう。」

 蓮が静かに言った。

「え? なんで私たちだけ?」

 つみきが驚くと、蓮は真剣な目で言葉を続けた。

「お前たちの実力を見たい。

 この先、運営本部に踏み込むには、

 単独でも動ける力が必要になる。」

 隣で、消しが小さく頷いた。

「俺と蓮は外で待機する。

 異常があれば介入するが、基本は見守りだ。」

 kokoは短く「了解」と返し、

 髪を束ねて結界展開の準備を始めた。

 光が淡く灯る。

 二人が塔の内部へと入っていく。

 階層ごとに違う構造。

 1階は無人の警備ドローン、

 2階は応力を吸収する液体状フィールド。

 kokoは瞬時に結界を展開して進路を確保し、

 つみきは指先をかざして

 自らの“重力変動”の応力を操る。

「行ける……私たちでも!」

 つみきの瞳に自信が灯る。

 一方、塔の外。

 蓮と消しは遠くの丘から監視をしていた。

「……二人とも、かなり仕上がってるな。」

 蓮が呟くと、消しは無言で頷いた。

 だがその瞬間──

 塔の反対側で、強烈な応力反応が走る。

 地面が揺れ、空気が裂ける。

 光の中から、ひとりの青年が姿を現した。

 白いコート、腰に剣。

 そして、その目は鋭く運営の塔を睨んでいた。

「ここが……運営の巣か。」

 低く呟いたその声。

 彼の名は──梅雨木(つゆき)。

「蓮、どうする?」

「……動くな。様子を見ろ。」

 梅雨木は塔へ一直線に突っ込んでいく。

 その先には──kokoとつみき。

 塔の内部。

 警戒態勢が一瞬で崩れ、衝撃波が吹き抜ける。

 扉が弾け飛び、梅雨木が姿を現した。

「運営の兵か……!」

 剣を構えると同時に、

 空気中の水分が彼の周囲に集まり、

 鋭い氷の刃となって飛んだ。

 kokoが即座に反応する。

「《結界展開・五重防壁》!」

 氷刃が結界を叩き割る。

 五重のうち三重が一瞬で砕け散った。

「なっ……!? 何この威力!」

 つみきが叫び、床を蹴って距離を取る。

 梅雨木の目は怒りで濁っていた。

「俺は運営を潰すために来た!

 ……なのに、貴様ら、運営の紋章を背負っているとはな!」

 kokoが驚く。

 確かに、潜入用の偽装スーツには

 運営の識別コードが刻まれている。

 誤解だった。

「違う! 私たちは──」

「言い訳するな!!」

 剣が振り抜かれ、光の斬撃が走る。

 つみきが即座に重力場を展開し、軌道をずらす。

「……強い。完全に私たちより上だ。」

「でも止まれない、やるしかない!」

 二人の連携が始まる。

 つみきの重力波で相手の足を縛り、

 kokoの結界で爆圧を跳ね返す。

 だが──梅雨木の動きは速すぎた。

 結界の隙を突いて、刃がつみきの頬を掠める。

 血の一滴。

 その瞬間、空気が凍り付いた。

 「やめろ。」

 重なるように響いた低い声。

 梅雨木の動きが止まる。

 視線を向けると、そこにいたのは──食べ消し。

 黒のマントを翻し、

 彼は静かに二人の間に立っていた。

「……食べ消し?」

 kokoが呟く。

 梅雨木は警戒を強めた。

「運営の処刑人が……なぜここに。」

 食べ消しはゆっくりとフードを外した。

 その目には、以前の冷たさはなく、

 静かな決意だけが宿っていた。

「俺はもう、運営の犬じゃない。

 ……あんたの気持ちは分かる。

 俺も、奪われた側だ。」

「奪われた……?」

 食べ消しは胸元を押さえた。

「記憶を喰われ、感情を削られ、命令だけで生かされた。

 運営がそうやって作った“人形”が俺だった。」

 沈黙。

 梅雨木の剣先が震える。

「……じゃあ、あんたも……運営に奪われたのか。」

「ああ。だからこそ、今はあいつらを倒す側にいる。」

 食べ消しが一歩前へ出て、手を差し出す。

「俺たちは同じだ。敵じゃない。

 共に戦えるはずだ、梅雨木。」

 その名を呼ばれた瞬間、

 梅雨木の目が見開かれた。

「……俺の名前、どうして──」

 蓮が背後から歩み出てきた。

「未来で会ったんだよ。」

 その一言に、すべてが静まった。

 長い沈黙の後、梅雨木は剣を下ろした。

 冷たい目が、少しだけ和らぐ。

「……悪かった。

 見た目が運営の兵と同じだったから……」

「気にすんな。誤解はもう解けた。」

 蓮は微笑み、手を差し出した。

 梅雨木はためらいながらも、その手を取った。

 塔の外に朝日が昇る。

 四人のシルエットが光に照らされる。

 蓮が呟く。

「これで五人目か。

 ──チーム《Hypocrite》、ようこそ。」

 梅雨木は小さく笑った。

「……俺が裏切ったら、食べて消せよ、食べ消し。」

「その時は、一緒に消えてやるよ。」

 互いに笑い、拳を合わせた。

 空の上で、オメガタワーが沈黙した。

 運営の核心へと、彼らはまた一歩近づく。

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