とーと事件10章
第10章「歪む未来の警告」
夜の避難キャンプにはかすかな焚き火の明かりが灯っていた。空気は冷たく、誰もが眠れずにいた。蓮たちはサタンからの死闘を生還し、その後ゼラちんと合流した――しかし心は休まるどころか、逆に張り詰めていた。
「まず、確認しよ。」蓮が静かに口を開いた。「ガリウムに勝つのは今の俺たちじゃ無理だ。運営四天王はまだ三人残ってる。レベルカンストまでは正面衝突はしない。」
仲間全員が頷く。その中で最初に口を開いたのは、やっぱりつみきだった。
「……ねぇ蓮。本当に、カンストまで時間かけて戦わないでいられる? 私たちの前で死にかけた時、みんな泣いたよ。」
「分かってる。でも今のまま戦っても全滅だ。」
つみきは唇を噛んだ。悔しさ、怒り、そして無力さ――それでも彼は目をそらさず、蓮をまっすぐ見つめた。
「じゃあ強くなる。絶対に。」
その言葉に、静かだった空気が少しだけ熱を帯びた。
次に口を開いたのはkokoだった。柔らかい声に不思議な安心感が伴う。
「強くなるのは大切。でも蓮くんだけが犠牲になる未来は許さないよ。私たちは“運営に勝つためのチーム”。みんなで生きて帰る。それが理想でしょ?」
「……あぁ。」
未来を5秒先まで視る能力を持つkokoの言葉は重い。彼女は誰より未来の危険を知っている。それでも“全員で生き残る”と断言した。
沈黙の中、食べ消しが木に背を預けたまま片手を軽く上げた。
「一つ問題。俺、元運営の刺客だっただろ? そこで聞いた断片だけど……四天王の中に“未来改ざん”をできる奴がいた。名前は、アダム。俺は会ったことねぇ。けど、ヤベぇ。」
一瞬で空気が凍りついた。
未来を変える能力――つまり蓮の“未来から来た”という事実すら、運営に知られた場合、改ざんされる可能性があるということ。
「未来改ざん……レベルは?」
「知らねぇ。ただ運営全員がビビってた。“怒らせちゃダメな存在”って。」
「サタンより危険ってこと?」
「……個人的には、比べられねぇ。方向性が違う化物だ。」
全員が息を呑む。
その時、焚き火の反対側で唐突に声がした。
「いい情報だねぇ。未来改ざん、か。」
ゼラちんだった。焚き火の橙色に照らされ、無表情でマシュマロを焼いている。
「俺の“適応進化”は、もし敵の能力の仕組みを理解できれば対策ができる。けど……」
「けど?」と蓮。
「未来改ざんだけは、仕様が把握できない限りどうにもならない。だから……“遭遇した時点で終わり”の可能性が高い。」
重く、冷たい言葉だった。
「でも希望はあるよ。」ゼラちんは淡々と続けた。「能力の制限って必ず存在する。俺たちがそれを突き止めるために戦うんだ。」
その瞬間、うまうまレタスが両手を挙げて飛び起きた。
「わかった! オレの能力で奪えばいいじゃん! 一時的に能力奪って、オレが使う!」
「……単純だが、正解だ。」ゼラちんが頷く。
しかしkokoは表情を曇らせた。
「でもレタスくん、それってとても危険。未来改ざんの能力を奪う時、未来はどうなるのか誰にもわからない。場合によっては……“能力を奪う瞬間の未来が改ざんされて奪えなかった”なんてこともあり得るよ。」
「……つまり、奇跡みたいな確率で成功するかもって話。」
「そう。」
沈黙。
仲間全員が“八割の人類が死んだ未来”の地獄を見てきた。だからこそ今、迷いが生まれる。
蓮はそっと立ち上がった。焚き火から離れ、夜風の中に一歩踏み出す。
「怖がってるわけじゃない。だけど、ここでビビって止まったら――未来は変わらない。」
振り返り、仲間全員を見渡す。
「五年前……俺は運営に負けた。つみきも、kokoも、レタスも、食べ消しも、ゼラちんも、全員死んだ。俺だけが生き残り、戻ってきた。」
全員が息を呑む。
「今回こそ、未来を変える。誰一人欠けずに。全員で運営を倒す。」
蓮の言葉は静かで、だが鋼のように強かった。
「バラバラじゃダメなんだ。俺一人最強でもダメだ。みんなで力を重ねて、初めて運営に勝てる。だから言う――」
蓮は胸に拳を当てる。
「俺はみんなを信じる。だから……全員、生き残れ。」
その瞬間――空気が震えた。
ゼラちんはわずかに口角を上げた。
食べ消しは深く息を吐き、立ち上がる。
kokoは涙を堪えるように微笑んだ。
つみきは震える拳を握りしめた。
レタスは大きく頷き、歯を食いしばった。
誰も言葉を発さない。
でも“決意”は確かに全員の中に宿った。
その時――
空気がひんやりと変わった。
焚き火の炎が一瞬だけ揺らぎ、そこに黒いノイズのような揺れが生まれた。
空間が裂ける――そんな嫌な感覚。
ゼラちんが最初に気付いた。
「来た……!!」
次の瞬間、空間のひび割れの中心から、青白い人影が現れた。
人影の口元が、確信に満ちた笑みに歪む。
「――やっぱり君は戻ってきていたんだね、蓮。」
全員の身体が硬直する。
その影は続けた。
「“未来から来た”なんて、そんな甘い逃げ道……運営が見逃すと思った?」
夜が、凍りついた。
蓮はゆっくり一歩前に出る。
「お前は……誰だ?」
青白い影は楽しそうに答えた。
「初めまして。安心しろ、蓮。お前はまだ知らないだけだ。」
影が指を鳴らす。
空間に“歪み”が走り、声が響いた。
「――俺の名前は《アダム》。運営四天王の中でも、未来を司る者だ。」
仲間全員が息を呑む。
蓮は、一歩も引かずに睨み返す。
アダムは口角を上げた。
「未来を変えられると思ってるのかい? 君はまた敗北するよ。五年前と同じ――いや、それより残酷な結末で。」
つみきの肩が震える。
しかし蓮は微動だにしない。
「変える。絶対に。」
「お前だけなら変わったかもしれない。でも――」
アダムは仲間全員を見回して笑った。
「“仲間がいる”未来こそ最も壊しやすい。」
火花のような殺気が散る。
「楽しみにしてるよ。君たちが絶望する瞬間を。」
次の瞬間、アダムの姿は空間の裂け目と共に消えた。
静寂。
しばらく誰も動けなかった。
けれど――蓮は深く息を吸い、言った。
「全員、準備しろ。次の戦闘は……ここから本番だ。」
誰一人、逃げる者はいない。
そして、未来を壊しに来た敵に、未来を守るための仲間たちが挑む――。
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