真夏の夜の湯来和尚
俺は20年以上務めていた比叡山延暦寺を先日追放された和尚の湯来だ。
ニートになった俺は生活費を稼ぐためにYoutubeで元和尚系YouTuberとして様々な動画を撮っている。
しかし、俺は此処20年ほど毎日寺の系内のトイレを磨きながらお経を唱えているだけの生活だったので流行りの動画や食べ物など何もわからない。そのせいか俺の動画の平均再生回数はわずか数十回、金などもちろん入ってこない。
これではまずいと思った俺は早速チャットTPGに今の流行りについて聞いてみた。
すると衝撃的なものが出てきた。
AIが答えたのは「真夏の夜の◯夢」
真夏の夜の◯夢というのは俺も昔によく見ていたビデオだ。何ならお経を唱えながらこれを視聴していたこともある
…そういえば追放される前日もそれをしていたような…
何はともあれこれなら俺でも理解ができる。
AIの回答を詳しく見ていると何やら8月10日には下北沢で◯夢好きの人間にとっての大イベントがあるというのだ。
俺はそのイベントに参加してその様子を動画にすることにした
8月10日、下北沢某所
俺は下北沢駅を降りた瞬間その光景にあっけにとられて俺はつい足を止めてしまった
「ンァーッ❗️」
「イキスギィ❗️」
なんと若者が駅のホームでまるで赤ちゃんのように何かを叫びながら暴れまわっているのだ
今の若者はここまで知性が低くなっているのか…と感じながら俺はコイツラとは違うんだと思い再び歩き始めた
駅を進んでいるとこんな人にも遭遇した
「真夏の夜の◯夢全編で〜す。どうぞ〜。」
真夏のティッシュ配りならぬ真夏の◯夢配りだ。
俺は近くの自動販売機に身を隠してその男の様子を見ていると、なんと道行く◯夢厨の男だけでなく女子高生にも配ろうとしたのだ
声をかけられたJKは悲鳴を上げて警察に通報した。男は逃げようとしたが、下北沢駅周辺には◯夢イベント対策なのか大量の警察が配備されており、男は逃げる間もなく現行犯逮捕された。
再び俺はコイツラとは違うんだと思い、目的地へと向かい始めた。
『野獣邸』と呼ばれている場所には予想以上の人間がいた。付近の道路は人の多さで使い物にならない。
俺はスマホを取り出し、ライブ配信を始めた。
「皆さんこんにちは!湯来和尚チャンネルの湯来和尚です!今日は8月10日ということで、下北沢の某所に来ておりますぅ〜。それにしても人の数、多スジィ!」
ライブ配信を始めた頃からだんだんと人数が増えてきており、もう満足には動けないほど人が集まってきた。
恐らくこの日の下北沢は世界で最も人口密度の高い場所だっただろう。
気がついた頃にはもう前が見えなくなってしまった。そのせいで◯夢中継はいつしか湯来和尚の顔面ドアップ配信になってしまっていた。
最初の方には数千人いた視聴者もいつしか0人になっていた。誰も俺の顔に興味はないようだ。
このままでは此処に来た意味もないので俺は身長160センチ、体重130キロの巨体を揺さぶって戦場の前線へと突進し始めた。
なんとか一番前に到達したの…だが、何やら後ろのほうが騒がしい
「おいこいつ!息してないぞ!」
「あのクソデブオレンジ野郎…よくも俺の淫友のリノシーを…!」
振り返ると俺が来た道には大量の屍が転がっていた。どうやら俺の身体が大きすぎて通った道にいた人間は全員身体が潰れてしまったらしい。
俺は人生で初めて人を殺してしまった。
「うわああぁぁぁぁぁ!!!」
恐怖のあまり俺は何も考えずにただひたすら逃げ続けた。
その時、ライブ配信を切り忘れていたことを後に後悔する羽目になる。
何度も何度も警察による制止や障害物に行く手を阻まれそうになったが、俺の体はすべてを貫いた。
国道を走っている車も、警察車両も、線路を猛スピードで走っている新幹線も、俺の敵ではなかった。
気がつけば辺り一面は真っ暗になっていた。
ここはどこなんだ…そう思いながらスマホを開くと、なんと俺は配信を切り忘れていたのだ。
俺は慌てて配信を切ったが、もう遅かったようだ。
パトカーのサイレンが段々と俺の方へ近づいてくる。
俺は急いで近くの砂浜へ逃げ込んだ。
スマホで今の場所を調べると此処はどうやら新潟らしい。時刻はすでに0時を回っていた。
とりあえずお腹が空いたのでパトカーに見つからないように砂浜にいるカニを生きたまま食べていると、後ろから船がやってきた。
俺はこの船を見た瞬間、これは北朝鮮の工作船だと確信した。
異国へ行くことの躊躇が一瞬あったものの、国内で晒し上げられるよりはマシだと思い俺は工作船へ乗り込むことにした
「お〜い!乗せてくれぇ!」
俺はドスンドスンと巨体を揺らしながら工作船へと向かった。
すると工作船から降りてきた工作員たちは慌てて船へ戻り始めた。
俺の身体が大きすぎて怖かったのか?…いや違う。
俺がその考えに至ったのとほぼ同時に後ろから叫び声が聞こえた。
「おい!湯来和尚!令状は出てるんだぞ!」
工作員は警察が俺を追いかけているのを、自分たちを追いかけてきているものだと勘違いして逃げていったのだ。
「おい…!待ってくれ!俺は北朝鮮に行きたいんだ!黒でん…キム様に会いたいんだ!だから置いて行かないでくれ!」
彼らは工作員であるのである程度の日本語はわかるはず…だが俺のこの叫びが彼らに届くことはなかった。
船が全速力で沖へと逃げ始めた。
「俺を、置いて行かないでくれえぇぇぇぇ!!!」
俺は最後の望みをかけて海へジャンプした。
しかし、この身体では距離が出ない。俺は無様にも海に着地した。
着水の衝撃と今までの疲労で俺は海の中で気絶してしまった。
…目が覚めると、俺は海の中にいた。
恐らく何十時間も眠っていたのだろう。だが不思議と呼吸は苦しくなかった。それに手足の感覚が妙だ…特に足に関してはくっついたかのような…
その瞬間、俺はまさかと思い海面へジャンプした。
それは俺とは思えないほど大きなジャンプだった。真夏の太陽が俺の身体を照らす。
再び海へと落ちる時、俺は見てしまった。
なんと俺は海豚になっていたのだ。
転生か…それとも人類の進化か…はたまた夢なのか…
どちらにせよ、あの自然の鏡に写っていたのは丸々と太ったオレンジ色の醜い人面海豚だった。
このトピックは、名前 @IDを設定してる人のみコメントできます → 設定する(かんたんです)

