【ハロウィン総選挙】「10月31日、また君と」
音の大きいアラームが静かな朝を騒がしくさせる。
10月31日。久しぶりにカレンダーを見ると「ハロウィン!」という文字が書かれていた。
子供の頃から、ハロウィンは特別だった。
親が過保護だった私の家では、友達と外で遊ぶことは許されていなかった。
だからといって、私の家に招くことも出来なかった。
でも、ハロウィンだけは違った。
小学校のハロウィンイベントを口実に、私は初めて、遅くまで友達と過ごすことができた。
友達の家で笑い合い、時間を忘れて遊ぶ。
帰りたくない気持ちが強くなるほど楽しくて、けれど、楽しい時間には必ず終わりが来ることも知っていた。
中学時代は、勉強や人間関係に追われるうちに、気づけば3年間が過ぎていた。
だからこそ、高校生活は特別だった。
勉強にも、親にも、以前よりずっと縛られなくなった。
ようやく自分の時間を手に入れた気がした。
毎日が楽しかった。
_あの日までは。
あの出来事が起きたのも、10月31日だった。
いつも通り2両目の電車に乗り、窓の外を流れていく景色を眺めながら、今日の予定を思い出していた。
今日はハロウィンイベントの日だ。放課後は友達と合流して、イベントを回る約束をしている。
去年よりも楽しみなのは、きっと、あの子も来るからだろう。
……なんて。自分の考えに、思わず小さく笑ってしまった。
そんなことを考えているうちに、降りる駅に着いた。
私は人の流れに押されるようにホームへ降り、いつもの道を通って学校へ向かった。
教室に入ると、聞き慣れた声がした。
「あ、おはよう」
顔を上げる。
彼女がこちらを見て、柔らかく笑っていた。
「おはよう」
たったそれだけのやり取りなのに、朝から少しだけ気分が良くなる。
彼女は誰にでも優しい。それは知っている。
それでも、私に向けられる笑顔が、他の誰かに向けられるものとは少し違っていたらいいのに。
…そんなことを考えてしまう自分がいた。
「今日、帰りたくなくなっちゃうかもね」
「え?」
「なんでもない。楽しみだね、今日」
彼女はそう言って、私に笑いかけた。
「なにそれ。帰りたくなくなるって、どゆこと?」
「さぁ?楽しいことがあると、そうなるでしょ?」
「……まぁ、それはそうだけど」
そんな返事をすると、彼女はまた笑った。
彼女と話していると、たまにこういうことがある。
何かを知っているような口ぶりなのに、肝心なところは教えてくれない。
本人に深い意味はないのかもしれないけど。
そういう、少し不思議なところも彼女らしさなのだと思う。
「ふふっ、楽しみだね」
彼女の笑顔に、胸が少しだけ高鳴った。
今日は、きっと楽しい一日になる。そう思っていた。
放課後、私たちはハロウィンイベントを回り始めた。
友達と笑い合いながら歩いていると、ふと隣にいた彼女が足を止めた。
「……ねえ、ちょっとこっち来て」
彼女に手を引かれ、人気のない廊下へ向かう。
「…どうしたの?急に」
「ううん。ただ、二人で話したくて」
彼女は少し照れたように笑った。
その瞬間、校内の音が全て消えた。
さっきまで色んな人がイベントを楽しみ、はしゃぐ声が聞こえていたのに。
気づけば、廊下には私たち以外誰もいなかった。
窓の外は真っ暗で、時計の針は午後6時31分を指している。
「……さっきまで、明るかったよね…?」
彼女は答えず、私の手を握った。
「ね、私のこと、忘れないでね」
次の瞬間、目の前が真っ白になった。
いつの間にか、私は友達の隣に立っていた。
時計は午後6時31分。
周囲はさっきと何も変わらない。
ただ、彼女だけがいなかった。
周りは変わらずイベントで盛り上がっていた。
友達が不思議そうに私の顔を覗き込んだ。
「、どうしたの?」
「…ねえ、あの子は?」
友達に尋ねると、不思議そうな顔をされた。
「……あの子って、?」
「ほら、いつも一緒にいる……」
そこまで言って、口を閉じた。
彼女の名前を言おうとしたのに、なぜか思い出せなかった。
急いでポケットからスマホを取り出し、開いた。彼女との写真も、メッセージも、どこにも見当たらない。
__そんなはずがない。
だって、今朝も話した。さっきまで、手を握っていたのに。
ふと、画面の日付が目に入った。10月31日。
その日、家に帰ってから、私は夢を見た。知らない女の子が、私に向かって笑っていた。
『来年も、会えるといいね』
目が覚めると、頬が濡れていた。
そして翌年の10月31日。
教室に入った私に、聞き覚えのある声がかかった。
「あ、おはよう」
顔を上げる。
彼女が、そこにいた。
「……やっと会えたね」
彼女は、まるで私をずっと待っていたかのように笑った。
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