ひ と り ご と
俺って結構、単純なのかもしれない。
ちょっと前までは「るぅとくん」って呼んでたんよ、あいつのこと。
でも。
そのくらいの他人感が、その頃はあった。
だけど、鼓動が早くなるようなゲームを何度も一緒にやっているうちに、「くん」なんてつけてる間さえ惜しくなった。
その血が滾るような時間が楽しくて、次第に増えていったコラボの回数。
ときどき「るぅとくん」と呼ぶと逆に湧くコメント欄に時の流れを感じたりなんかして。
不仲説があったことが嘘みたいな、今。
他のメンバーは過去と今が直線で結ばれているのに、あいつだけは過去と今が躍動感のある線で結ばれているような、そんな感じがある。
そんな彼をころんあたりは『あいつは変わった』『昔のるぅとくんは良かった』なんて言うけど、俺にとっては落ち着きなくて何をするか予測のできない今の彼のほうが面白くていいと思う。
何でもできるその裏には知らないことを調べることを怠らない妥協を知らない努力があるし。
どんなにメンバーからからかわれてもガチで怒ったりして空気を悪くすることがないし、切り替えも早い。
確りしてるようで寝坊はするし、頭がよさそうで漢字は弱い。
打たれ強さと屈しない強さ。それからどこか抜けてる人間らしさ。
ひな鳥みたいにころんの後をついて歩いていた時には全く感じなかった魅力が、今の彼にはある。
いいな、とは思っていた。
だから気になって恋愛観なんて聞いてみたりした。
その答えが屈折して普通に充実したものじゃないことに安心した俺は確かにいた。
その思いが確かなものになったのは、恋愛観を聞いた少し後のリレーのコラボ。
初めて放送を俺の家で一緒にしたあの日。
呼び寄せたのはぎりぎりの思い付きで、一人で来るのは初めてだった彼は予想通りに迷子になってて、鬼電に気づいて折り返したときは心細そうに「さとみくぅん」と鳴いた。
カンで動いて間違った家の番号を押すあたりの迂闊さとかがもうすでに面白くて、ようやくたどり着いた彼を玄関先で迎えた俺は「さとみくんイケメンが台無しな顔してる」と開口一番で失礼なことを言われる程度にはほおが緩んでいた。
そのあと十分も置かずに始まった放送は、彼の思い付きのメンヘラ女子の茶番から始まって、そこから急な歌枠。
ピアノもあるよ、といえば俺の好きな曲の伴奏をサクッと弾いて。
勝手に持ってきた俺のギターで「さとみくんに絶対合うなって思う曲があるの」なんて歌ったこともない曲を歌わされて。
まるでジェットコースターのようなその枠は、何をやっても面白くて、言うこと成すこと何ひとつ予想通りなことはなくて、しかも達成感まであった。
こんなに、全力で遊んだ子供みたいに「楽しかった」で終わる枠もそんなにない。
オンラインのほうが遊べるゲームの幅が広いからってそちらばかりを選んでいた過去を勿体なく思った。
時間制限で仕方なく枠を閉じた後は、家の機材についての話なんかで盛り上がった。
途中「コーヒーでも飲むか?」と自慢のエスプレッソマシンを紹介した時には、すごく申し訳なさそうに苦々しい顔で遠慮されたけど、子ども舌も彼らしいとむしろ微笑ましかった。コーヒーの味を批評するるぅとってちょっと嫌かもしれない。
翌日のことがあるから、と一時間ちょっとで帰っていった彼を引き留めたいと手を伸ばしかけた。
それからは余韻がすごくて無意識に「楽しかった」と何度もつぶやいた。
ずっと触っていなかったピアノをその日からは無性に触りたくなって、そして選んだのはあの日にるぅとから「合う」と勧められた曲。
それを極めたいと思って指を動かしながら、俺はちょっとした自覚をしていた。
同棲したいランキングで自分の次にお互いをランクインさせた俺たち。
キスが上手そうランキングでお互いを一位にした俺たち。
俺はるぅとに弟だとか兄だとか父だとか身内的な関わりは望んでいない。
どこか見知らぬ地に一緒に行くより、徹底的に彼個人とかかわりたい。
そうだ。
この曲を弾き語れるようになったら、るぅとを家に呼ぼう。
いつも予想外のことをして楽しそうに笑ってるあの子。
もしも曲の終わりに上手いと予想したキスをされたら、どんな顔をするだろうか。
それを楽しみに思いながら、俺は白黒がはっきりとした鍵盤と向き合った。
りとかんのYouTubeってなにわとかAぇとかみたいにバカ笑いはしないけど頬が緩むような和むような笑いが出てくる()