ある日の

7 2021/05/22 09:23

いちまい

にまい

さんまい

流れを目で追う

これが花筏

「ねえ」

横から唐突に声をかけられて今何枚か忘れてしまった。

「なに」

少し不機嫌さを声ににじませて私は声の主の方を向いた。

彼女は大きなリュックのようなものと細長い袋状の何かを持っていた。

「自殺?」

彼女はその言葉を躊躇う様子もなく口にした。

予想もしなかったそれに私はぶっと噴き出し、大声で笑ってしまった。

「あははは、んなわけないでしょ」

それから橋の柵からパッと手を離して見せた。それからその手をパーカーのポケットに突っ込んだ。

「ね?」

「ああ、そう」

今度は彼女が手を柵にかけた。

「ねえ、それ何?ずいぶん大荷物だけど」

彼女が持っているリュックを指差して言う。

彼女は私の指を目で追ってああ、と声を漏らした。

「剣道の防具」

その声があまりにも興味が無いように聞こえて首を傾げた。

「剣道部?」

「そう」

淡々とにこりともせずに答える。ただ目は私の方を向いている。

「強いの?」

「全然」

そう答えてから彼女はその防具とやらを地面に下ろして柵に手をかけ、ひらりと飛び越えた。

瞬間私の前から彼女は消えていた。

花びらが舞う。

水面に落ちる。

どぷん、と音がして水飛沫が上がった。

「え」

私は柵の方に駆け寄り、下を覗き込んだ。

花びらが浮かぶ水面。

彼女が顔を出した。

「この川、自殺には向いてないよ」

彼女が無表情で淡々と告げる。

私は急いで川へ下りて彼女の元へ向かった。

「ん」

手を差し出すと握ってきたので勢いで引き上げる。

その時彼女の左手が豆だらけなのに気がついた。

「あんた、馬鹿だね」

「やってみたかっただけ」

スカートを雑巾のように絞っている彼女の声はまだ淡々としていた。

花びらが舞う

濡れた彼女の頭に張り付く

花筏

彼女は犬のように頭を振って水を飛ばしてから

少しだけ口角を上げたようだった

ーー

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その他2021/05/22 09:23:17 [通報] [非表示] フォローする
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1: @syouu 2021/05/22 10:11:26 通報 非表示

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