この恋が叶うなんて思わなかった #6 文化祭の日の事故
あっという間に文化祭の前日である。
「みんな、明日は文化祭だ。うちのクラスが売り上げ1位になるように頑張るぞ!!」
先生が今日はいつになく熱い。
先生はこういう所で熱くなるのだ。
「明日寝坊してくる奴がいたら許さないぞ!」
気を付けないとな、とぼんやり思う知弘であった。
この先生の許さないはどんなのか分からないので怖い。
翌日、皆、気が高まっているのか、知弘が登校する時間には歩いている人が少なかった。
すると、前を歩いている雫を見つけた。
なんだか無性に話しかけてみたくなったので、知弘は雫の所へ歩いて行った。
「おはよう、凄い荷物だね。」
「あ、はい、クラス全員分なので。」
「気を付けて、荷物で横幅が大きいから人にぶつからないようにね。」
変なアドバイスを残して、知弘は角を曲がった。
角を曲がる瞬間、柄が悪そうなザ・ヤンキーみたいな2人とすれ違った。
「変な人だな。」
そのまま知弘が曲がってきた角を曲がり、2人で並んで歩いて行った。
だが、そこで思い当たる事があった。
【2人で並んで】歩いていたのだ。
先程知弘がしたアドバイスが蘇る。
『荷物で横幅が大きいから人にぶつからないようにね。』
ドンと何かが当たる音がした。
「雫が危ない。」
急いで角を曲がり、さっきの場所へ戻る。
ちょうど、2人組の1人に雫が手を引っ張られている所だった。
「何ぶつかってきてんだよ、こっちはムシャクシャしてんだよ。お?」
鬼のような形相で雫に顔を近づける。
雫が恐怖で震えているのが分かった。
そこで知弘はこう思った。
「臭そうだな、口臭が。」
そんなことを考えている場合ではないのだが、そう思ってしまった。
だが、雫の恐怖に震える顔は見たくなかった。
「おい。」
声をあげると、2人組はこちらを向いた。
「なんだよ。」
「お前らな…」
知弘はそう言ってだいぶ間をあけ、言った。
「口臭そうだな!!」
完全に挑発である。
「なんだと!!調子乗ってんじゃねぇよ!チビ!!」
あまり身長は変わらないのだが、年下にはチビと言って先輩感を出しているのだろう。
知弘の狙い通り、2人は雫を眼中から外し、標的は知弘に向いていた。
2人は猛スピードで飛び掛かってくるが、知弘には分かる。
殴る時に下を殴るひとはそう居ない。大半が顔面を狙うだろう。
つまり、屈めば良いのである。
知弘が軽々と屈むと、案の定顔面を狙っていたので、拳は全て知弘のはるか上の方に突き出された。
今のうちだ。そう直感した知弘は2人の間をひらりとかわすと、雫の元に行った。
もう話している暇はない。
「しっかり握っておいて。」
ただ一言こう言うと全力で走り出した、雫の手を握ったまま。
知弘は足の速さはまぁまぁ自信があるが、年上には及ばない。
学校までたどり着くのは無理があるだろう。
知弘には作戦があった。
そのためには、入り組んだ通路のある辺りへ行かなければならない。
そこに行くまで捕まらないことを祈るばかりだ。
雫も足が速いのでついて来れている。
知弘は少しスピードを上げた。
なんとか捕まらずに入り組んだ通路へやってきた。撒いたようだが、どうせすぐ見つかるだろう。
「雫、ここに座っておいて。」
雫を路地裏の大きなゴミ箱の裏に座らせる。
「すぐ帰ってくるからちょっと待ってて。」
「は、はい。」
「これがフラグにならないように頑張って来るよ。ハハ。」
最後はタイミングが合えば成功する。失敗すればどうなるかも分からない。
ここにある交番は、ある角を曲がってすぐの所にある。
ここはなぜか扉が閉まっている為、ノックしないと出てこない。
先程二人組を撒いたということは、ここの構造を知らないと言うことだ。