短編集.1「春の恋」
フラれた。
ずっと好きだった、幼なじみの男子に。
◆◇◆
「あーっ、何でよっ!」
「桜良、声量落としなさい」
親友の未海に呆れたように言われる。私は口をとがらせた。
「未海、もうちょっと慰めてくれてもよくない?私フラれたんだよ?」
「え、ふつうに元気そうじゃん」
「これでも落ち込んでるの!」
ぐびっとオレンジジュースを飲み干した。心の傷に染み渡る。うまい。
「でもさ、明日から気まずいねー」と未海。
「だよね……。よく一緒に登校してるし、あいつ後ろの席だから」
はぁ。私は重いため息をついた。
◆◇◆
「未海ーっ!」
登校してすぐ、未海の姿を見つける。抱きつこうとしたけど、すっと真顔でよけられてしまった。
「ひどいよ未海……」
「そういうのは好きな子にやってよ」
「いじわる」
わいわい未海とやり合っていたとき。
「おはよー、桜良、市川さん」
思わず私はぽかんと口を開けた。未海は一瞬面食らったような顔をする。私も同じ顔をしていたと思う。
「お……おはよう、春希」
声をやっとしぼり出す。
春希___昨日私をフッた幼なじみは、いつものように席に座った。
◆◇◆
休み時間、珍しく鼻息を荒くして未海が私のもとに来た。
「許せない」
「え、どうしたの未海」
むすっとした顔のまま、私を廊下に引っぱる。
「あいつ、桜良をフッたくせに何事もなかったように……。桜良の努力はどうなんのよ」
「私?」
そこまで考えていなかった。
確かに、春希はいつも通りだった。笑顔で私に話しかけてきたり、消しゴムを貸してくださいと頼んできたり。
だけど、私にはそれが嬉しかったなぁ。余所余所しくしてこないから、ホッとした。
「そういうところが好きだった、のかも」
まあ失恋しちゃったけど、と呟くと、未海は。
「まだ失恋じゃないでしょ」
「え……、どういうこと?」
「桜良はまだ、恋心を失ってない!好きって気持ちが消えるまで、失恋じゃないよ!」
力強く言った後、おどけたようにペロッと舌を出してきた。
「なんつって、私、すっごくいいこと言ったわ!」
「ばーか、今の言葉で台無しだよ!」
でも。
「ありがとね、未海」
未海が私の親友でよかった。
◆◇◆
「春希」
人気のない校舎裏。この前私が告白した場所。でも、前みたいに手汗はかいてない。
「……なんだ?」
戸惑ったような顔で春希が聞いてくる。すぅっと私は息を吸い込んだ。
「やっぱり私、春希が好き」
「……桜良、前も言ったけど」
「分かってる」
春希の言葉をさえぎって、私は微笑む。
「でも、諦められないから、絶対に振り向かせてやる!って、今日はそれだけ。来てくれてありがと」
自分のいった言葉に恥ずかしくなって、逃げ出そうとする。そのとき背後から、ぼそっと声が聞こえてきた。
「春希、なんか言った?」
「……楽しみにしてる、って言ったよ」
私たちの間を、春風が吹き抜ける。
まだ恋は、始まったばかり。
【挨拶】
読んでくださりありがとうございます。駄作ですが感想待ってます。短編というわりには長いですね……