【小説】もう一回の聖夜
私はあの日を絶対に忘れない。
きっと、死ぬ間際に思い出すのもあの日なのだろう。
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真紅の艷やかな髪の毛が頬を撫で
そして天使のように微笑む彼こそが
私の推し。
私がこの世で一番愛しているのは絶対に彼だ。
四六時中、ずっと彼のことを考えている
ああ今日もかっこいい…
ふとため息が漏れる。
前髪が崩れて、靴は濡れるしジメジメするような
最悪なはずの雨の日だって、彼のグッズの発売日というだけで、わくわくが止まらない。
今回の缶バで痛バを組むつもりの私は、店舗にすぐ並んで勝ち抜いていかなくてはならない。
私は、気合を入れて今日に挑む。
今日は12月24日、クリスマスイブの日。
それにちなんで、彼のグッズもクリスマス仕様になっている。
ああ考えているだけで楽しくて仕方がない!
時間が迫ってきていたので、私は速攻で店舗へ向かう。
「急がないと、、」
その時、厚底のスニーカーが石にひっかかり、私はバランスを崩した。
あっと声を出すと、わたしは地面に転げていた。
…盛大にコケてしまった。
セーラー服のスカートから覗く私の膝は、真っ赤になってしまった。
うう、痛い
でもグッズのほうが大事だ
頑張って立ち上がろうとした、その時だった。
「足、大丈夫!?」
声が聞こえると、私の視界に手が差し伸べられる。
私は顔を見上げる。
その瞬間、時が止まったように思えた
痛みなんて全くなくなってしまっていた
だって、そこにいたのは、私の最愛の推し、そう、彼だったのだ。
「あ、は、は、いだ、だいじょうぶです」
「え、声も出ないくらい痛い?」
「い!?いえ、心配なさらず」
私は、とっさに逃げようとした。
「待って!」そう言って彼は私を引き止める。
私は状況がイマイチ分からなかった。混乱でおかしくなりそうだ。
…推しが私の腕をつかんでいる…??
流石に自分にとって都合が良すぎる夢だと思った。
でも、この足の痛み、現実のようだった。
「すみません、ありがとうございます。大丈夫です。」
私はダッシュでその場から逃げた。
慌てすぎて、店舗とは反対方向の道へ走り続けていた
でも、そんなことはどうだっていいと思った。
結局、グッズは買えなかった…
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手、やわらかかったな。
髪の毛サラサラだった
八重歯、可愛かった…
あの日から2日たった今もずっとそんなことを考えていた
今日は、家に帰ったらすぐ彼のツイッターの確認をしよう、と思っていた。
ふと窓の外を眺める。
すると、黒ずくめの人が、学校の門に立っているのだ。
私は、一目でわかった。
どうして、どうして
彼が、ここに!?
私はホームルーム後、光の速さで門へ突っ走る。遠くから、彼を眺める。
誰を出待ちしているのだろうか。
…もしかして、妹がいるとかだろうか?
こっそり、見守ることにした。
するとバッチリ彼と目があってしまった。
やばいやばいやばい推しがいる生きてるこっちを見ているど、どうしたら
落ち着け私。気のせいだ多分。
すると彼はこっちに近づいてくる
そして、私の目の前で止まった
「ねえ、君って、この前転んでいた子だよね?」
「は、はいそ、そうです。」
「そうだよね!よかった!」
そう言うと彼はポケットから何かを取り出して、私に渡す。
これは…私の学生証?
「これ、転んだとき落としてて、制服で、学校ここかなと思って、渡しに来たんだ」
ほんとに、死ぬかと思う
推しが届けてきたという状況に信じられないと
鼓動が速くなる。
それじゃあ、といって彼は身をひるがえす
もう、会うことはないだろう。だからだから最後に伝えよう!
「あ、あの!」
私は振り絞って声を出す
「ぃ、いつもみてます!応援してます!!!がんばってください…!」
はあ、はあ、言った。
彼は少し驚いた顔をして、ニッコリと笑った
「ありがとう!!!!!!」
エンジェルスマイルすぎる。。
ああ、彼を推していてよかった!!!
私は幸福感でいっぱいだった
次の日の、あのニュースまでは
彼は死んだ
事故だった
時間も私と別れたあとすぐだ
私と出会っていなければ
未来は変わっていたかもしれない
絶対に、私はこの日を忘れない
—忘れられない。
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