笑顔 【短編小説】
雪が花のように舞う。その儚く溶けゆく小さな精霊たちは人間に幸福をもたらす。
「母さん、お外で真っ白な雨が降っているよ。」
まだ五つにも満たない幼児が、窓から外を覗き込んでいる。母さんが上半身ごと振り返り、愛がこもった笑顔を向けながら伝える。
「その雨は、雪と言うの。」
「ゆき、ゆき、美味しそうだね。」
幼児は初めて知る雪を、輝く瞳で興味深げに見つめている。
「母さん、ゆき、お届けできるかな。」
「そうね、誰にお届けするの。」
父さん。そう、幼児は口を動かした。母さんは一瞬目を見開き、嬉しそうに笑った。母さんは優しく暖かい声で、幼児に向かって何か伝えている。最高のお届けものね。そう、言っているように聞こえた。幼児は心の底から、嬉しがって笑っている。母さんも、笑顔と共に抱きしめた。笑顔に溢れた、尊く、大切な幸福が舞い降りる。雪に姿を潜めた、精霊と共に。
彼岸からずっと守っていた、父さんと共に。
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