おもいで 二話※百合注意
「おはよう〜!」
学校に、元気な三葉(みつば)の声が響く。
みんな揃って挨拶してたけど、私はなんだかおはようと言う気になれなかった。
ヒソヒソと聞こえる「冷た、やっぱ冬香(ふゆか)ムリだ」とかいう声も聞こえないふりをした。
三葉はそれに対してダメ〜とか、友達だ〜とか、反論する。
正直やめてほしいし、もっと「何吹き込んだ」とかいって睨まれるし。
もういやだなぁなんて教科書を広げながら思った。
─放課後までスキップ─
キーンコーン、カーンコーン。
チャイムが鳴るとともに、みんなすぐさま椅子から立ち上がってカバンを背負った。
私だけぼーっとしながら椅子を引く中、みんなが次々に帰っていった。
三葉は他の人から「一緒に帰ろう」と言われても、「約束があるから」
とキッチリ断っていた。
他の人と一緒にいてもいいのに、自分といることで暗くなる三葉を思うと涙が出てきそうになった。
カバンをようやく肩にかけると、さっさと三葉の方に駆け寄っていった。
まだ三葉は他の人と話していて、「なんで冬香なんかと仲良くするの」って声がちゃんと耳に響き渡った。
伸ばそうとした手が震えて、心臓が脈を打つ。
一歩引き下がろうとしたときちょうど、三葉と他の人の会話が終わった。
「あ、ごめんね。待ってたでしょ」
「いやこちらこそ……待ってたのはそっちだし」
私がにこりと笑顔を作ると、三葉は心配そうに私の背中を突いた。
何? と聞くまえに、三葉の方から先に喋り始めた。
「…今の会話って……」
「聞こえてなかったよ。なんか話してたとこは見たけど」
嘘、真っ赤な嘘。
──三葉が安心したように胸を撫で下ろした。
三葉な少し混乱するように息を吐いていて、一度息を整えると「行こっか」と何事もなかったかのように笑った。
「あ、うん」
窓の外には雨がザーザー降っているのが見えて、私を待たなかったら三葉は普通に帰れたのかなとか想像してしまう。
家が近いから、しばらくは三葉と一緒にいられる。
「というか、前のプリントとか終わった?」
「…終わってない……」
「え、珍しくない?冬香が終わってないって。」
そんな余裕がなかったからだ、とハッキリ答えられるほど勇気はなく、そういう時もあるなんて誤魔化した。
「明日中提出だけど大丈夫?」
全然平気、とは笑っていられない。
シャープペンが動かなかったし、持つのすらままならないくらい手汗もあった。
少しも進めていないのに、明日に──だなんて。
プリント自体はもっと前から渡されていたんだけどなぁ。
「大丈夫じゃないよねー…」
「うん、マジでやばい」
「どうし……あっごめん。私ここだから、じゃあね」
気がつけば三葉がいなくなっていて、手を振る時間もなかった。
でもかすかにメッセージしとくね〜なんて声が聞こえたので、自分もさっさと家に帰ってスマホを確認することにした。