ヤクザっ娘!
「よし、少年ジュース飲もう。」
お姉さんはそう言って、コップを二つ持ってきた。
「一緒に飲んだら兄弟だよ、私は君のお姉ちゃん。」
「お姉ちゃん?」
「そう、だから君が困ったら私が助けてあげる。」
いたずらっぽく笑って、乾杯した。
「仁義を持って礼を尽くす、だよ。」
「だからぁ、私は継がないって。」
「最近は男も女もねぇよ、なぁオメェら。」
着物を着たおっさんが、周りの黒服たちに同意を求める。
「へい!」
「反社が社会の風潮を取り入れるな。」
きびすを返して部屋を出ていく。
「鏡花、おめえ幸助と一緒になりてえんじゃねぇのか?」
「そんなわけないでしょ、パパのバカ!」
襖を思い切り閉めた。
「誰がヤクザなんか継ぐかっての。」
私は絶対にカタギに、普通の女の子になるんだ。
「お嬢、お弁当持ってください。」
「あっ、コウちゃん!」
聞き馴染みのある声に振り向く、金髪の男子だ。
「お弁当どうぞ。」
「うん、ありがとう。」
コウちゃん、幸助からお弁当の包みを受け取る。
「んじゃ行ってきます!」
「へい!」
野太いおっさんの声に送り出されるのが、私の日常。
「今日は何もなきゃいいけど…」
「おい。」
いかにもな目つきの男子だ、多分私のお客さん。
「不良狩りっててめえだろ?」
「どうでしょうねぇ?」
「オラァ!」
直線的な拳、横に飛べば避けられる。
「よいしょ!」
片手に握った木刀で一撃。
「お嬢、どうします?」
「殺気出さない。」
おでこにピンッと食らわせる。
「いいよ、別にカチコミかけられたんじゃないし。」
「へい。」
そう、ヤクザは分別をつけなきゃいけない、それが落とし前をつけるべき喧嘩か否かの分別を。
「遅刻しちゃうから行きますよー。」
「おはようございます!」
いつだって野太い男に迎えられるのが、私の日常。
「えー、じゃあみんな、今日も一日仁義を通して!」
ヤンキー校の番長、JKにあるまじき地位。
「まぁ、家のブランドのおかげか。」
日本一のヤクザ、,,王龍会,,私の実家だ。
そういうことで、カタギの女の子とは程遠い。
「あー、組長なんかになりたくないよー。」
おじさんたちをまとめて刑事さんたちと付き合うなんて私には無理だ、というかやりたくない。
屋上で食べるお昼、至福の時間だ。
「私はコウちゃんのご飯だけで…ふふ。」
こうちゃんはパパが拾ってきて、盃を交わしている。
それはつまり、私のパパとおじいちゃんに忠誠を誓うということ。
組を、オヤジを裏切ってはならない、それが仁義だ。
「俺はどういう形でも、お嬢に仕えます。」
「だめだよ、コウちゃんは若頭なんだから。」
どれだけ暖かくても、私は好きって言えない。
「君はオヤジに、パパに忠誠を誓わなきゃでしょ?」
私はただ、今この時に君が抱いてくれるだけで、満足だよ。
「コウちゃん、ちょっと遊んで帰ろうよ。」
ブランコに乗って立ち漕ぎする。
「いやっほー!」
「…」
コウちゃんは無言だったけれど、いつもより笑ってた。
「うええ。」
「ん?」
子供だ、こんな夏場に長袖?
「おーい、少年?」
「パパ、帰って来ない…」
膝を抱えて泣いている。
「ふむふむ、コウちゃん連れて帰るよ。」
「へい。」
「仁義を持って礼を尽くす、ウチのルール。」
少年の手を取る、とりあえずジュースとお菓子、盃を交わせば兄弟だ。
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