母の日 小説「カーネーションの約束」

3 2025/05/11 19:53

『カーネーションの約束』

登場人物:真央

五月の風が柔らかく吹き抜ける日曜日、真央は駅前の花屋に立っていた。

「すみません、赤いカーネーションを一輪、お願いします。」

店主が丁寧に包んでくれた花を受け取りながら、真央の胸は少しだけ締めつけられた。カーネーションの香りは、あの日の記憶を鮮やかに蘇らせる。

——七年前の母の日。

あの日、真央は母にこう言った。

「大学に行きたいの。東京の大学。」

母は驚いた顔をしたが、すぐに優しく微笑んだ。

「真央が決めたことなら、応援するわ。でも、母の日にはちゃんと帰ってきてよ。」

その約束を守ったのは、最初の年だけだった。

就職活動、引っ越し、仕事——気づけば母と会う時間は年に数回。電話も次第に減っていった。

そして去年の母の日。

真央は「来月帰るから」とだけLINEを送った。

数日後、実家の隣人から電話が来た。

「真央ちゃん、お母さんが倒れたの。急いで帰ってきて。」

病院のベッドで眠る母に、真央は何度も謝った。でもその目はもう、開かなかった。

それから一年。

母の写真は、実家の仏壇に静かに微笑んでいる。

「もう一度だけでも会えたら」——そう思わずにはいられない日々だった。

今日、真央は花を持って山の上の霊園に向かった。

丘の上には見晴らしのいいベンチと、小さな墓石。風が木々の葉を揺らし、鳥のさえずりが聞こえる。

墓前に赤いカーネーションを供え、手を合わせる。

「お母さん、ごめんね。でもね、来年からは——毎年、母の日は絶対に帰ってくるから。」

その瞬間、ふと頬を風が撫でた。

涙がひとしずく、カーネーションの花びらに落ちる。

空を見上げると、雲の隙間から一筋の光が差していた。

「うん、わかってるよ。」

母の声が聞こえたような気がした。

真央は微笑んだ。風がやさしく彼女の肩を押し、まるで背中をそっと支えてくれるかのようだった。

終わりに

誰かを思い出す日。

その人がもうこの世にいなくても、想いはちゃんと届く。

カーネーションは、ただの花ではない。

「ありがとう」と「会いたかった」が重なった、奇跡のような約束の証だ。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!!

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タグ: カーネーション 約束

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その他2025/05/11 19:53:36 [通報] [非表示] フォローする
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>>1
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