とーと事件7章
第七章 再起 ― うまうまレタスとの邂逅
暗闇の中で、蓮は目を開けた。
息を吸うと、肺が焼けるように痛い。
身体のあちこちにひびが入り、血が乾いてこびりついていた。
「……ここは……どこだ……?」
耳に届くのは水の滴る音だけ。
周囲には倒壊したオメガタワーの瓦礫が散らばっていた。
サタンの咆哮も、ガリウムの姿も、もうどこにもない。
彼は、死んでいなかった。
スキル《疲れない能力》がギリギリで命を繋いでいた。
だが、今のレベルは変わらず「1」。
体内の魔力もスキル値も、ほとんどゼロに近い。
「……ここから……もう一度だ……」
蓮は瓦礫の上に立ち、静かに拳を握った。
仲間たちは無事逃げた。
あとは、再び強くなるだけ。
そして、運営四天王──いや、“ガリウムとサタン”を倒す。
夜空の下、ひとつの影がゆらりと現れた。
月光に照らされて立つ人物。
長い前髪で片目を隠した青年。
フードの下からは緑がかった髪が覗き、
その手には一本のレタスを握っている。
「……お前が、蓮だな?」
「……誰だ?」
「名乗るほどの者じゃないが……そうだな、呼ぶなら“うまうまレタス”とでも呼べ。」
「は……?」
蓮は思わず眉をひそめた。
「変な名前だと思うだろ? でも俺の“象徴”なんだ。
俺は“奪う”んだよ。力を。一時的に、な。」
青年──うまうまレタスは静かに右手を上げた。
瞬間、空気が歪む。
「ッ……!? 俺のスキルが……!」
蓮の身体から光が抜けるような感覚。
《疲れない能力》が、まるで霧のようにレタスの手に吸い込まれていった。
「なるほど……“疲れない”か。悪くない。」
レタスの瞳が輝き、彼は腕を軽く振る。
周囲の瓦礫が、まるで羽のように宙に浮かび上がった。
その動きには一切の疲労の色がない。
「……どういうつもりだ……?」
「俺は敵でも味方でもない。
“バランス”を保つために存在している。
この世界は、今、運営もお前らも、どちらかが勝っても崩壊する。
だから俺は、強すぎる者から一時的に力を奪い、均衡を取る。
……それが俺の役目だ。」
蓮は拳を握る。
「それでも、俺は運営を倒さなきゃならない。」
「分かってる。だからお前の力は返す。
だが、忠告しておく──お前は今、“サタン”という存在を甘く見ている。
七つの大罪、72柱……それらを同時に制御できる者は神にも等しい。
もし立ち向かうつもりなら、“それを超える存在”になれ。」
「……超える存在?」
「そうだ。
この世界の“レベル”という概念すら塗り替える存在だ。」
レタスの声が静かに響く。
そして、再び右手を掲げる。
「試してみるか? 蓮。
お前の“限界”ってやつを。」
次の瞬間、周囲の空気が一変した。
うまうまレタスの周囲に、無数の光の輪が浮かび上がる。
その輪の中には、かつて蓮が見たはずの72柱の悪魔のシルエットが映り込んでいた。
「……お前、どうしてそれを……!」
「“奪った”のさ。ガリウムの力の一部をな。」
蓮は一歩後ずさる。
ただの能力泥棒じゃない。
この男、確実に運営の幹部クラスとも戦っている。
だがその瞳には、敵意がない。
ただ、純粋な“興味”と“観察者の冷静さ”があった。
瓦礫の上で、二人が向かい合う。
「……俺はお前を倒すつもりはない。
けど、俺の成長を試すつもりなら、受けて立つ。」
蓮は息を整え、拳を握る。
全身に微かな光が宿る。
「いい目だ。
だったら──見せてみろ、“未来を変える力”ってやつを。」
うまうまレタスの体から、再び光が弾ける。
周囲の空間が歪み、二人の間に広がるのは、
かつてサタンが現れた“紅い空”の再現。
まるで、再びオメガタワーの頂で戦っているかのような幻影。
蓮は拳を構える。
「俺は……もう逃げない。」
「なら、証明してみろ──“奪われても、奪えない魂”があるってな。」
二人の衝突が、夜の闇を貫いた。
爆風が巻き起こり、地面が裂け、星々が揺れる。
その戦いは、やがて“蓮の覚醒”へと繋がっていく――。
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