【小説読んで!!】思い出のパンを、半分こ。
石造りの小洒落た街に、どこからか香ばしい匂いが漂っている。
細い路地を抜けると、小さなパン屋がある。
木の看板は色あせ、窓辺には焼きたてのパンが並んでいた。
客は多くない。だが、毎日必ず訪れる少女と、男がいた。
ある日の昼下がり、少女は栗色の髪を揺らし、扉を押して入ってくる。
「今日も、ひとつだけ。」
少女はそう言って、決まって一番小さなパンを選ぶ。
代金を置き、静かに去っていく。
ある日、老人は声をかけた。
「どうしていつも、それだけなんだい? もっと食べた方がいい。」
少女は少し考えてから、微笑んだ。
「約束してるの。半分こするって。」
「誰とだい?」
少女は答えず、パンを抱えて店を出た。
店主は、いつも店に来てくれる年端もいかない少女が、苦しい生活をしているのではないかと心配になった。
少しの罪悪感を抱えつつも、その後をそっと追う。
石畳を抜け、街外れの丘へ。
やがて少女は、小さな墓の前で立ち止まった。
風に揺れる草の中、彼女は腰を下ろす。
パンを二つに割り、片方を墓石の前に置いた。
「今日も来たよ」
やわらかな声で言う。
「ねえ、もう少しだけ待ってて。」
店主は遠くから、その光景を見つめる。
ご両親が、亡くなっているのだろうか...
胸の奥が、わずかに痛んだ。
そのとき、背後から声がした。
「優しい子でしょう。」
振り返ると、もう1人の常連の男が立っていた。
「......あの子を知っているのか?」
男は静かに頷く。
「ええ。この子と私は...結婚する予定でしたから。」
「......失礼、あの子とあなたでは親子ほど年齢が離れているように見えるが...」
店主は聞いた。
風が強くなり、草がざわめく。
「ええ、――あの子は私が16才のとき、病気で亡くなったんです。」
店主は息を呑む。
再び墓の方を見る。
少女は、誰もいない空間に向かって笑いかけている。
そして次の瞬間――
その姿は、夕焼けの光の中にすっと溶けて消えた。
残されたのは、割られたパンがひとつだけ。
男の腕には、袋いっぱいのパンが抱えられていた。
「約束したんです、半分こするって。」
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